7687 浮上してきた「菅おろし」への道筋 花岡信昭

※復興ビジョンを描くには、菅首相の退陣が前提
民主党や自民党の一部の幹部、さらには霞が関官僚らのまったく非公式なレベルでの話を聞いていると、いま一番の問題は「菅首相が自ら辞めようとしない」というところにあるようだ。
「この首相の性格からすると、絶対に辞めない」と断言する向きもある。退陣した場合の後継者に、これだという人がいないといった事情を強調する実力者もいる。
「3・11」がもたらした巨大地震、巨大津波、原発事故、風評被害という「四重苦」をどう克服するか。いうまでもなく、これが最大の政治課題だ。1カ月を経過して、救援から復興へとステージが移りつつある。
巨額の復興予算をどうつくっていくか。政府はとりあえず4兆円規模の第1次補正予算を成立させる方針だが、最終的には20兆から30兆円ぐらいの規模になるだろう。
復興ビジョンをつくり、実際に公共事業を主体とした一大プロジェクトを実施していこうというときに、政治が機能不全に陥ったままでは、効率的な対応などできるわけがない。
ここは救国大連立の発想が求められているという点で大方の意見は一致するのだが、自民党から何人かの閣僚を取り込む構想は頓挫した。菅首相が退陣してくれれば、ものごとは一気に進むという見方が大勢になりつつある。
※菅首相のクビに鈴をつけるのは仙石由人氏しかいない
というわけで、菅首相のクビに鈴をつけることができるのはだれか、という段階を迎えている。
民主党内では仙谷由人氏しかいないという声がある。仙谷氏は「3・11」によって、菅首相のたっての望みで党代表代行兼務のまま官房副長官として官邸に復帰した。枝野官房長官の兄貴格だから、いまや首相官邸の最大の実力者ということらしい。
党内ににらみを利かせることができ、野党自民党とのパイプも太い。民主党にはあまりいないタイプだから、こういう危機的状況のときに手腕を発揮する。「尖閣」対応などで問責決議を受けたことなど、すでに吹き飛んでいる。
菅首相としては、自分の支えになってほしいと官邸に招き入れたのに、引導を渡す役として浮上する展開になるとは思っていなかったに違いない。
大連立構想の第1段階が失敗して、第2の仕掛けが必要になっている段階だ。仙谷氏が動いて菅首相退陣への道筋をつくることができれば、再び大連立の機運が高まる。そのとき、後継者はだれか。
※ワンポイントリリーフで仙石氏が後継首相に?
ズバリ仙谷氏だ、と見る向きがある。政治の世界では「鈴付け役」はナンバー2に徹してはじめて成功するものだという見方が強いが、この非常時で大連立へのシナリオを実現する立役者となれば、仙谷氏がそのまま後継首相となる可能性が高まるというわけだ。
これはあくまで「3・11」という日本政治がこれまで経験してこなかった状況に置かれているからこそ、可能になるシナリオだ。断わっておくが、通常の政権交代とはわけが違う。
復興体制を固めるための時限的措置である。半年か1年かは交渉次第だが、大連立の政治状況をつくって、増税などの財源措置も含め復興への枠組みを仕上げた時点で解消される。
衆院の任期はあと2年余り残されている。その期間の前半部分ぐらいをこれに充てる。被災地では統一地方選も延期しなければならなかったのだから、早期の解散・総選挙はあり得ない。そういう状況だからこそ実現可能性が出てきた特例中の特例だ。
※統一地方選大敗に加え、菅首相の打つ手がすべて裏目に
統一地方選の前半戦で民主党は「惨敗」した。「民主vs自民」対決となった東京、北海道、三重の3知事選で敗北し、41道府県議選すべてで第1党の座を獲得できなかった。
旧来型の政治常識からすれば、これは菅首相にとって「辞めどき」といえた。選挙に敗北しての退陣ならば「かたち」はつく。「3・11」対応にことごとく失敗して政権の座を追われるといった事態を考えれば、選挙敗北退陣のほうがはるかに意味がある。
出処進退の潔さも出てくるわけで、その後の新体制づくりに力を残せることにもなる。24日投開票の後半戦も民主党敗北は決定的だ。菅首相にとって、もうひとつのタイミングということになるのだが、すでに民主敗北は織り込み済みなのでインパクトはほとんどないという見方もある。
統一選敗北に加えて、菅首相にとって芳しくない状況ばかりだ。打つ手がすべて退陣環境の外堀を埋める作用を生んでいる。
あえて列挙すれば、「復興構想会議」の議長に五百旗部真防衛大学校校長を起用したこと、福島原発について国際原子力事象評価尺度(INES)で最悪の「レベル7」を打ち出したこと、民主党内では小沢一郎氏が鳩山前首相との連携で「倒閣」に向かって動き出したこと・・・などである。
※疑問が残る五百旗部真氏の「復興構想会議」議長起用
その3点について若干の解説を加えておきたい。
五百旗部氏の登用は、かつて神戸大教授として阪神淡路大震災の対応に当たったことが大きいようだが、永田町や霞が関の反応は決して好ましいものではない。五百旗部氏はリベラルな政治学者として知られ、小泉純一郎氏が首相時代に防大校長に起用したさいも疑問の声が少なからず出た。
この人事の裏には、靖国参拝などでの批判をかわそうという小泉氏流のアリバイ作りの思惑もあったとされる。五百旗部氏はその後、官邸メルマガで小泉氏の靖国参拝を厳しく批判したこともある。
五百旗部氏には申し訳ない言い方になるが、阪神淡路大震災のさい、同様のポストに起用されたのは、下河辺淳氏(元国土事務次官)であり、官僚組織に絶大な影響力を持っていた。その点が大きく異なる。
ついでに言及しておくと、阪神淡路大震災の復興が成功したのは、これまた全省庁を動かすことのできる石原信雄官房副長官(事務)の存在が大きかったし、復興担当相として小里貞利氏という実力政治家が起用されたことを忘れてはなるまい。
社会党委員長だった村山富市首相は「ワシは何にも分からんから」と、自民党サイドの人材にすべてを託したのである。今回はその発想が完全に抜け落ちている。
米軍の「トモダチ作戦」は高く評価されたが、菅首相の「お友達登用作戦」はなんともいただけない。
※なぜこの段階で「レベル7」を打ち出す必要があったのか
「レベル7」は経済産業省の原子力安全・保安院と国の原子力安全委員会が菅首相の了解を得て発表したものだ。それまではレベル5だったのが、2段階引き上げによってチェルノブイリと同ランクの世界最悪の原発事故として認定されることになってしまった。
評価尺度は国際原子力機関(IAEA)が定めているものだが、評価はそれぞれの国の判断に委ねられている。なぜこの段階で「レベル7」を打ち出す必要があったのか。これによって、風評被害は農産物だけではなく工業製品などにまで国際的に拡大することになった。
原子力安全・保安院などは放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1割程度などと釈明しているが、言い訳をするぐらいなら出さなければよかった。IAEAもチェルノブイリに遠く及ばないという見解を公式に出したほどなのだ。
つまりは、原子力行政がバラバラに行われている日本の実態をさらけ出してしまったことにほかならない。菅首相の政治力の減衰を示すものともいえた。
※民主党内に広がる「菅おろし」の動き
そして、民主党内の「菅おろし」の動きである。小沢氏は系列議員を私邸に連日招くなどして、被災対策や原発対応のまずさを指摘し、じわじわと「菅包囲網」を形成しつつある。
小沢氏の周辺では野党が内閣不信任案を提出した場合、これに同調する動きすら出始めた。衆院で内閣不信任案を可決するには、民主党から80人ほどの造反が必要だ。小沢グループは約90人とされており、同一行動を取れば、可決も不可能ではない。
あるいは、両院議員総会での党代表のリコール成立という手もある。鳩山グループと連携すれば、衆参で過半数を上回るのだ。
こうした動きはたとえ現実のものとはならない場合でも、菅首相にはすさまじいプレッシャーとなる。前述したような仙谷氏の動きを加速させる要因にもなる。
いずれにしろ、深刻な原発事故を引き起こした戦後最大の大惨事に対応するためには、政治の混迷状況がいつまでも続いていていいわけはない。
杜父魚文庫

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