拙速に軍事大国をみせつけ、周囲を敵対させてしまった。中国は戦略に整合性を欠如し始めていると指摘するのは米国シンクタンクで戦略研究をするエドワード・ルトワック博士である。
彼は「中国はナチス・ドイツと同じ誤りを繰り返すのか?」と疑問を呈する。彼が来日した折、数人でルトワック博士を囲んだ。
第一に中国は現在、「総合戦略」を欠いている。一部の指導層にはあるかもしれないが大半は自己の狭い利益のために動いている。
第二に中国はそのあまりに拙速で迅速な軍事力の拡充に、世界を早く警戒させすぎた。自己の力を誇示して英国を警戒させ露仏との同盟に向かわせ、結局包囲されて失敗した第一次大戦前のドイツと同様に中国は失敗の途上にある。
となれば中国は軍事力を削減し、領土紛争を一方的に解決するという自己犠牲的な方針を取らない限り、米側陣営(米、日、印、アジア諸国)の警戒を解くことはできない。だから失敗する。中国側が米側陣営と対抗できる蓋然性は例外的にロシアと同盟できるか、どうか。しかしロシアが中国と同盟するだろうかとルトワックは続ける。
1890年末にドイツの産業システムは英国より優れていたうえ、科学でもギリシャ文学でもドイツ語の知識なしに研究ができない有様であり、英国の凋落は明らかだった。
しかしドイツが英国より優れていたのは軍事力ではなく、産業・金融、科学・学術の分野におけるシステムだった。30年後にはドイツが世界のナンバーワンになることは誰の目にも明らかに思われた。だがドイツは第一次世界大戦に敗北し、英国はその後も数十年の世界覇権を維持できた。この文脈から言えば、現在の中国は当時のドイツと同じ危険な道を走っている。
英国はフランスと植民地争奪戦を演じていたもの、モロッコの帰属ほかで妥協し、フランスを同盟国とした。
他方、日英同盟を締結し、ロシア帝国を牽制し、はたまたロシアとも同盟関係を結び、米国とイタリアも英国の陣営に引っ張り込んだ。こうして英国はドイツ包囲網を形成し、囲まれてしまったドイツは敗北した。
▲GDP世界三位までの中国は比較的おとなしかった
中国はGDP三位だった2008年あたりまでは適切な戦略を行使してきた。
2008年九月からの「世界金融危機」で欧米、日本の衰退と反比例して中国の台頭に自信を得るや、唐突に傲慢になり、「ドル基軸は過去の遺物、ドルに変わる貨幣を」などと発言し、南シナ海や東シナ海で軍事行動を展開し、日米両国、アセアンからインドまでに中国脅威感を与え、究極的には中国脅威に対抗できる連合機関を造った。
ルトワックは次のように結論する。
「人口でもGDPでも軍事力でも中国のかなうところではない。第三次世界大戦が起こると思っているわけではないが、戦火を交えないレベルでの様々な「闘争」において、中国は米国陣営により包囲され、究極的に敗北へ到る。これは現在の趨勢がつづく限り確実なコースである。
中国は余りにも早く世界を警戒させすぎたのだ。台頭する国家がやってはならない誤りである」
それゆえに日米両国は今後、ロシアを取り込む外交を展開することが極めて重要になり、ルトワックは「そのために日本は北方四島問題を「棚上げ」してロシアと戦略的関係を築くべきである。ベトナムやインドと連携を深めているのは良いセンスだが、ロシアが鍵であるなどと言っている。
この大胆な問題提議、じつは『フォーリン・アフェーズ』に掲載される前に、人民日報系『環球時報』に抄訳され、中国の知識人が先に読んだという。(この拙文は『共同ウィークリー』、2011年4月11日号からの転載です)
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★読者の声 どくしゃのこえ ドクシャノコエ 読者の声★
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(読者の声1)貴著新刊『震災大不況で日本に何が起こるのか』(徳間書店)を連休中に全部、読みました。フランスのサルコジ大統領がリビアなど中東でやけに張り切っているのを、不思議に思っていましたが、日本の震災と関係が無きにしも非ずなのですね。これも、ちょっと驚きました。
先生の御本の良さは、あまりにひどい状況(震災、経済、すべて)であっても、日本人として、どこか希望の残ることです。これは、どの御本でもそうですね。ただし現政府のことが、ぼろくそに書いてありましたが、読みながら、「では、自民党だったら危機にもっとましに対応できていたのか」という大きな疑問を感じました。
危機管理のできていなかったのは、今始まった話ではないし、東電の土壌作りにも自民党が大いに貢献しているはずです。それが、震災を機にこういうふうに噴出してしまったのでしょう。でもいつもながら情報の多さには感嘆です。(EK子)
(宮崎正弘のコメント)自民党は自眠党。自民党を持ち上げている箇所はないと思います。サルコジは如何でしょう? 次期フランス大統領はペロン女史の可能性が高いのでは? 米国もオバマ再選の可能性はきわめて薄く、カーターの二の舞(大惨敗)になるのではありませんか?
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●一日一行○ 中国の世論調査で50%以上がビンラディンの死を悼んでいる
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杜父魚文庫
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