ビンラディン殺害に関して浮かびあがる疑問の数々、私が日本ビジネスプレスに書いたレポートのつづきです。
ワシントン時間の5月1日深夜、オバマ大統領はホワイトハウスから全米向けに演説をして「ビンラディンの死」を発表し、自分自身が直接にこのビンラディン検挙作戦を決定し、指揮したと語った。
同時に、9.11テロでの米国側の巨大な被害や多数の人命の喪失がこれでいくらかは報われるという意味も込めて「勝利」を宣言した。
だが、現実にはこの作戦は、ブッシュ前大統領時代から米軍特殊部隊やCIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)など情報機関の精鋭を動員して継続されてきたものである。
いわば国家の敵だったビンラディン容疑者を抹殺したことは、米国では「輝かしい成果」として国民の圧倒的多数から歓迎された。ふだんはオバマ批判を絶やさない共和党側政治家たちも、今回はその「成果」を挙げたオバマ大統領へ賞賛の言葉を送った。客観的に見ても、オバマ大統領の大きな政治得点でもあろう。
<<居場所を突き止めるきっかけとなったのは捕虜への尋問>>
しかしその一方、今回の作戦はなお新たな課題や疑問をも生むこととなった。第1には、オバマ大統領が従来掲げてきた政治主張と整合が取れないという点である。
今回、オバマ政権がビンラディン一家の所在を探知できたのは、グアンタナモ収容所での捕虜尋問がきっかけだった。オバマ政権の発表でも、主としてこの尋問により、今から4年前にまずビンラディン容疑者の至近にいる側近の伝令の存在が確認できたという。そして2年前にその伝令の正確な身元が判明した。この伝令は、今回米軍が襲った建物に家族とともに住んでいた。
ところがオバマ氏は大統領選候補だった時期からグアンタナモ収容所の閉鎖を求め、収容所内の厳しい尋問にも反対を表明してきた。オバマ氏の政治主張が政策として実現されていれば、ビンラディン抹殺につながる情報を得られなかったとも言えるのだ。
第2には、ビンラディン容疑者の殺害についての不透明部分である。
オバマ政権の当局者たちは、5月1日の最初の発表では「ビンラディンは米軍に対して抵抗し、銃撃戦となった」と述べ、ビンラディン容疑者も武器を持っていたと説明していた。ところが3日の発表では「ビンラディンは武器を持っていなかった」と訂正した。
非武装の人物が「抵抗したので射殺した」と説明することには無理がある。まして、オバマ氏はブッシュ前大統領の「対テロ戦争」という用語を使うことを避け、一貫して「テロリスト容疑者の人権」への配慮を強調してきた。そのオバマ氏が、武器を持たない容疑者をいきなり銃撃して殺害するという今回の措置を命令したのかどうか。(つづく)
杜父魚文庫
7862 ビンラディン追及でのオバマ大統領の矛盾 古森義久

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