7881 ビンラディンの死で残る2つのナゾ 古森義久

ビンラディン殺害をめぐる疑問点の残りの二つについての論評です。日本ビジネスプレスの「国際激流と日本」という私のコラムからの転載の、今回としては最終分です。
米国内には、ビンラディン容疑者の殺害という措置を非難する声はほとんどないが、なお謎や非難が残る可能性も高い。
パキスタン当局は見て見ぬふりだったのか?
第3はアルカイダの今後への疑問と懸念である。ビンラディン容疑者の殺害は米国では「ヘビの頭を斬った」と表現され、最高司令官をなくしたテロ組織はその威力も減らしていくだろうとの見方が大勢を占める。
実際、アルカイダはこのところ守勢に立ち、イラクやアフガニスタンでも勢いが衰えてきた。さらには中東のエジプト、リビア、シリア、チュニジアなどの諸国では民主化が広まり、暴力の無差別使用を主体とするアルカイダへの支持が急速に減ってきた。
とはいえ、なおアルカイダの最高幹部は多数が健在であり、今回のビンラディン容疑者の死に報復を誓うという動きも伝えられている。首謀者を殺されたテロ組織が逆にこれまでよりも大胆な攻撃に出てはこないだろうか。その懸念は高まりこそすれ、決してぬぐい去ることはできない。
第4には長年、ビンラディン容疑者の隠れ家を許容してきたパキスタンという国家への疑問である。
隠れ家があったアボタバードという都市は、当初ビンラディン容疑者が潜伏していると見られたアフガニスタンの山岳地帯からははるかに遠い、国境から150キロもの地点にある。しかも、パキスタンの首都イスラマバードから50キロの至近距離である。その上、アボダバードにはパキスタンの国軍士官学校があり、軍首脳の住まいも数多いという。
そんな都市に、周辺の建物より8倍も大きい3階建てのビルが5年前に建設され、その中にビンラディン一家が住んでいたことを、パキスタン当局がまったく知らなかったはずはないだろう。
米国はパキスタン当局には何の通知もせずに今回の作戦を断行したという。パキスタンではもともとアルカイダやタリバンというイスラム原理主義組織への支持が強かった。そんな国が今回の事件後、米国に対してどんな態度に出るのか。気になるところである。
米国にとっては「一件落着」とも受け取れるビンラディン容疑者殺害作戦には、なおこうした課題や疑問が多々残ったままなのである。
日本としてもアンテナの感度を高く保ちながらこうした動きを追っていくことが、自国の対テロ対策や国家安全保障にとっても欠かせないだろう。
杜父魚文庫

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