私が雑誌SAPIOに連載している「アメリカの中国研究」の総論に続く第一回は「核戦力」です。その冒頭を紹介し、問題提起とします。
この連載は実際には次の号のSAPIOが出て、第二回の「宇宙戦略」を報告しています。
中国の軍事態勢の特徴はその秘密性である。不透明とも評される。アメリカや日本のような民主主義国家と異なり、どんな戦略の下にどんな兵器を開発し、配備するかがまず公表されることがない。だれがどう決めるのかも不明である。ある日、突然、強力な新兵器が登場するのだ。アメリカ側が中国の軍事の研究に集中するのも、中国側のそうした秘密性が大きな理由のひとつだといえる。
しかし秘密といえば、中国の核戦力の秘密度はとくに高い。核拡散防止条約(NPT)が認める公式の核兵器保有国五カ国のなかでも中国だけは保有する核弾頭や核ミサイルの数を秘密にしたままなのだ。
だがアメリカを先頭とする諸外国による実態の探査も盛んである。イギリスの国際戦略研究所(IISS)の2010年の報告は、アメリカなどに届く核弾頭用の大陸間弾道ミサイルを中心とする中国の長距離戦略核ミサイルは合計九十基ほどだと算定した。そのほか中距離や短距離の核ミサイルも多数ある。アメリカ国防総省の同年の発表は戦略核、戦術核のすべてを含めての中国の核弾頭保有を計三百から四百発以上と推定していた。これらの数字はアメリカの核弾頭が最新の公表分でも五千百発だから量的にはずっと少ないこととなる。
「しかし中国の核戦力にはこうした表面の状況だけでは測り知れない危険で不安定な部分があまりに多いのです。アメリカやロシアなど公式の核保有国がみな大幅に核兵器を削減する現在、中国だけは逆に増強しているのです」
中国の核戦略に詳しいマーク・ストークス氏が語る。彼はアジア太平洋の安全保障問題を研究する「プロジェクト2049研究所」の専務理事である。米空軍に二十年間、勤め、中国の軍事研究を専門とし、国防総省の中国部長をも歴任した。中国の核戦力についての著作や報告も多い。ベテラン研究者である。
杜父魚文庫
7892 中国の核戦力の実態 古森義久

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