さて、菅直人首相は14日夜、東京・赤坂の日本料理屋でソフトバンクの孫正義社長と会食をしましたね。孫氏については、今回の東日本大震災に当たって私財100億円を寄付するという義挙を行った人なので、あれこれ言いたくないのですが、この会食の際に菅首相を元気づけるという愚挙に出ました。
同席していた福山哲郎官房副長官の説明によると、孫氏はこう語ったそうです。
「嵐のど真ん中で船長を代えると言われても困る。そんなことはありえない。とことん頑張ってください。」震災発生以来、この一見良識のように見えて、実は的外れで根拠のない言説のなんと多いことか。朝日新聞や毎日新聞は一生懸命「今は総理を代えるべきときではない」とお題目を唱え、有害無益の菅首相を支えようとしていますが、それは国家国民に対する犯罪行為だとすら感じます。
西岡武夫参院議長は、孫氏とは逆にこう指摘しています。「『急流で馬を乗り換えるな』という言葉があるが、急流を渡れず流されているのであれば、馬を乗り換えなければならない」
至極真っ当で当然のことであると考えます。第一、危機の時代だからリーダーを代えないという考え方は、一見もっともらしく感じられる部分もありますが、過去の例を見ても正しくありません。孫氏は「ありえない」と言ったようですが、歴史上、いくらでもある話というのが事実でしょう。
日本の歴史を振り返っても、国家存亡の危機にあった先の大戦中、東条英機元首相は辞任し、小磯国昭元首相、鈴木貫太郎元首相と代わってわけですが、何がなんでも東条氏が続けた方がよかった、と言えるでしょうか。
英国では、第二次世界大戦の最中の1940年5月、ドイツとの融和路線・政策で失敗したチェンバレン元首相が辞任し、チャーチル元首相が後を襲っています。チャーチル氏の著書「第二次世界大戦」によると、5月8日の議会で、ロイド・ジョージ氏はこうチェンバレン氏を追及しました。
「私は、首相こそ犠牲の模範を垂れるべきであることを厳粛に言う。なんとなれば、この戦争において、首相がその任を犠牲に供すること以上に勝利に貢献することはないのである」
もちろん、過去の戦争と現在の震災復旧・復興とは異なりますが、英国の勝利は、優柔不断なチェンバレン氏が身を退いて、チャーチル氏が首相に就いたことよって導かれた部分もあるはずです。
一方、わが国の現状はどうでしょうか。ちょっと話は飛びますが、美人を形容する言葉に、次のようなものがありますね。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
これに対し、最近聞いたところでは、菅首相の現在を表す言葉には、こんなものがあるそうです。言い得て妙であります。
「立てば国難、座れば人災、歩く姿は風評被害」
こんな存在をかばってどうしようというのでしょうか。理解に苦しみます。…ところで、月刊文藝春秋6月号の元テレビ朝日ロンドン支局長の廣淵升彦氏のコラムによると、チャーチル氏は海相時代の1914年11月、第一次世界大戦の最中にこう演説したそうです。
「The maxim of the British people is “Business as usual” 」(我らイギリス人の至宝ともいうべき言葉は「何事もふだんのとおり」である)日本も見習いたいものだと感じました。
杜父魚文庫
7899 菅首相を激励した孫社長とチャーチルと 阿比留瑠比
阿比留瑠比
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