外国との友好とは相手の嫌がることは一切、提起しない、ということでしょうか。相手国の言動が自国にとって理不尽であり、それがいくら自国の死活問題であっても、国益の基本にかかわる案件であっても、相手にはなにも伝えない。そうなると友好というよりは自国の利害を無視する媚びの外交となってしまいます。
菅首相は韓国と中国の首脳を迎え、日本の固有の領土の不法占拠や日本の自然資源の勝手な収奪など、一切、懸念は表明しなかったというのです。産経新聞の報道と社説がそのあたりの状況をきちんと伝えています。
<<日中韓サミット 菅首相及び腰 尖閣・竹島言及せず>>
菅直人首相は22日の李明博韓国大統領との会談で、韓国の国会議員が北方領土の国後島訪問を計画していることを一切取り上げなかった。
韓国が不法占拠す る竹島(韓国名・独島)周辺での総合海洋科学基地計画も提起せず、温家宝首相との会談では昨年9月の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に触れなかった。
中韓両 国やロシアが東日本大震災への支援の一方で日本の領土への攻勢を緩めない中、菅首相は日中韓首脳会議を機にした友好ムード演出に躍起となるだけだった。
「震災に対し大統領の被災地訪問をはじめ、本当に心温まるお気遣いをいただきました…」菅首相は日韓首脳会談の冒頭にそう語り、李大統領に頭を下げた。感謝の言葉は続いたが、東京電力福島第1原子力発電所事故の負い目からか、懸案の問題には一切触れない作戦に出たようだ。
首相は韓国の野党議員3人の北方領土訪問計画について20日の参院予算委員会で「事実が確認されれば、きちっとした対応をとりたい」と、事実確認後に抗 議する意思を示していた。議員は22日の首脳会談時、すでにロシア極東のウラジオストクに入っていたが「計画が最終的に確認できていない」(外務省筋)と 意図的に議題から外した。
竹島問題については20日夜の日韓外相会談で松本剛明外相が持ち出しただけ。尖閣諸島も松本氏が22日の日中外相会談で「日本の立場」を主張したが、菅首相は衝突事件の対応で批判された教訓を生かす気概さえ示さなかった。
李大統領が日中両首脳との共同記者会見で「原発事故が韓国と中国国民に大きな衝撃を与えたのは事実だ」と指摘したのとは対照的だ。
中韓両国は震災に対する善意の一方で、したたかさも忘れていない。中国は3月26日、東シナ海の日中中間線付近に国家海洋局のヘリコプターを飛ばし、海上自衛隊の護衛艦に約90メートルの距離まで急接近。韓国は4月13日に総合海洋科学基地建設計画の業者を決定した。
いずれも日本政府は抗議したが、ロシアも5月15日にイワノフ副首相らが北方領土を訪問。周辺国はそろって、「震災支援は支援、領土問題は領土問題」の姿勢をまざまざとみせつけた。
菅首相は21日に中韓両首脳を福島市の避難所に招き、3人そろって地元産の野菜を食すという場面で満面の笑みを浮かべた。できることは政治パフォーマンスしかなかったようだ。(酒井充)
<<【主張】日中韓サミット 肝心の議論を避けるとは>>
東日本大震災への対応で菅直人政権の不手際が続く中での中韓両国首脳の訪日と日中韓首脳会議(サミット)は、「友好」の演出だけが先走った印象が強い。
東京電力福島第1原発の事故によって噴出した諸問題があるにしても、日中、日韓それぞれの2国間が抱える懸案について首脳同士の突っ込んだ議論が交わされたとはいえないからだ。
確かに原子力の安全や防災分野の協力などの議題では、一定の成果があった。
原発の放射能漏れ事故に伴う日本の農水産品や工業製品をめぐる風評被害の防止では、首脳宣言の付属文書で「科学的証拠に基づき必要な対応を慎重にとる」と明記された。
さらに中国の温家宝首相は日中首脳会談で、中国側が輸入禁止対象としている日本の12都県から山梨、山形両県を除外するなど規制の一部緩和を表明した。
温首相と韓国の李明博大統領が菅首相とともに原発の周辺住民が避難している福島市の体育館を訪れ、そろって福島県産の農産物を試食したパフォーマンスの効果も小さくはない。
しかし、温首相は菅首相に対し、低レベルの放射能汚染水について「放出の阻止を求める」と述べた。菅政権の危機管理能力への不信は払拭されていない。
首脳宣言では北朝鮮が主張するウラン濃縮計画に懸念を表明したが、そのタイミングをはかるように金正日総書記が訪中し、「日中韓」の連携に水をさしている。
それ以上に問題だったのは日中、日韓の懸案事項に進展の兆しが見えなかったことだ。菅首相の不作為に起因するところ大だ。
菅首相は、日中では昨年7月以来中断されたままになっている東シナ海ガス田開発をめぐる交渉の再開を提起したが、温首相は明確に応じず、菅首相もそれ以 上食いさがらなかった。尖閣諸島をめぐる問題では、震災後にも起きた中国ヘリの海自艦艇への急接近に言及さえしなかった。
日韓では、日本の領土である竹島を韓国領土とする立法措置を求める韓国国会議員がロシア側の動きに呼応し、24日にも北方領土を訪れる。この問題も菅首相は李大統領に抗議しなかった。
年1回の日中韓サミットは忌憚(きたん)ない議論を謳(うた)ったはずだ。それを忘れていては意味がない。
杜父魚文庫
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