東京は世界のなかで異常な常規を逸した都市である。まず首都であるのにもかかわらず、国軍である自衛隊の制服を着用した者の姿をまったく見かけることがない。アジア諸国でも、欧米でもどこであれ、首都ではその国の軍人が制服姿で闊歩しているのを、見るものだ。
私は敗戦の年に、長野県の国民学校(小学)三年生だった。敗戦の一、二ヶ月前に、女性の代用教員が、「アメリカ軍が上陸してきたら、男はみな睾丸(きんたま)を抜かれてしまいます」といったので、子供心に戦(おのの)いたものだった。軍服を目にすることのない東京を見ると、代用教員の言葉が正しかったと思う。
東京についてもう一つ異様なことは、多くの男女が犬を連れて散歩しているのに行きあうが、どの犬も例外なく高価な血統書つきの犬で、雑種が一頭もいないことだ。私のように雑種犬に囲まれて育った者には、物好きな金持のために催されるドッグショーの会場に、迷い込んだような気がする。
血統書つきの犬たちは、ブランド物のドレスや、ハンドバッグのように、舌を噛みそうな名がついている。
「人は買い求める物によって、つくられる」と、いわれる。紳士淑女のふりをしているものの、心が貧しいから、ブランド商品に憧れる手合が多い。どうして値札がつかない雑種の犬を、かわいがれないのか。
ブランド物を身につけることによって、自分もブランド物になりたいと、憧れている。それよりも、般若經を唱えたり、老人介護施設でボランティアとして奉仕して、心を磨いたほうがよい。
このところ、多くの男性の褌(ふんどし)の紐が、弛(ゆる)み切っている。その反面、女性たちがはじらいや、はにかみを、浮べることがなくなった。俯(うつむ)きがちになって歩くことがなく、全員がまるで戦前、女だてらに軍装して〃男装の麗人〃として囃(はや)された川島芳子のように、洋靴の踵(かかと)を高く鳴して、往来している。
東京駅の遺失物係へ行ったら、和魂を捜すことができるものだろうか。きつと、「五十年前まではお預かりしていましたが、どなたも取りにおいでにならなかったので、処分しました」と、告げられることだろう。
貪欲、邪淫、妄語、邪見が増えると、天変地異を招くと、日蓮上人が『立正安国論』で警告している。今回の巨大地震は、日本に対する天の鞭であったと考えたい。
杜父魚文庫
コメント
人は 買い求める物によって つくられる。おもしろい言葉ですね。意味深いですね。この世の発展。
終戦から 少しづつ 豊かな日本になったけれど 人権にかかわる問題も多く 解決されてなく 又は 知られていない