武漢は地下鉄二つのルートを工事中、長江を跨ぎ地下20メートルのトンネルは泥水。
武漢は戦略的要衝として栄えてきた。長江と漢江が合流する場所は武昌、漢口、漢陽と三つの地区にわかれ(これを「武漢三鎮」と呼ぶ)、武昌地区には大きな湿地帯が広がる。風光明媚な湖沼が広がり、なかなかの景勝地である。
武漢と言えば「三国志」の舞台としても有名、かの「赤壁」は南へ150キロの長江沿い。蒋介石も一時期、武漢に首都を置いた。
広州からまっすぐ北へ1068キロ。武漢まで新幹線が開業した。広東省をでる「和諧号」は、延々とまっすぐに北上し、椰州、衝山、湖南省の長沙、岳陽から湖北省へ入り、赤壁を経て武漢にたどり着く。三時間十六分(ただし各駅停車は四時間。途中駅は十三駅)。
筆者が、この広州―武漢の新幹線に試乗したのは数ヶ月前である。いくつかの中国側の明るい報道との“落差”を発見した。
第一に始発駅「広州」は新駅。正確には「広州南駅」。広州市内から一時間かかる田んぼの真ん中を開拓した。この駅にたどり着くまでに地下鉄は繋がっていない。連絡バス(それもすし詰め)に乗り換えて、ようやくたどり着くと、駅は部分的にしか完成しておらず、コンクリート剥き出しの一階をすぎて、新幹線ホームにたどり着くことになる。
待合室の大ホールには、ましなレストランもなく、パンとビールで昼をすませ、列車に飛び乗った。
第二に途中駅も長沙を除いて、すべて新駅、それも旧市内から離れた山里、農村に急遽こしらえ、殺伐とした風景の駅が点在するが、アクセスが不便このうえない。急なカーブをつくらないので一直線にレールを敷設した結果である。
第三は到着駅もまた新駅である。武漢駅に到着して判明したショックとは、これも新駅だったことで、なんのことはない、武漢市内までタクシーで一時間もかかるのである(武漢には武昌、漢口の大きな駅が二つ、漢陽は事実上の廃駅)。
だとすれば、大宣伝「広州―武漢 三時間十六分」って、大いに疑問符がつく。というのも新駅から新駅で距離をおよそ100キロを巧妙に縮め、実質は980キロである。まっすぐの線路ゆえにスピードは出るが、始発駅まで一時間、到着駅から市内まで一時間。合計二時間を加えると、なんのことはない、従来の特急よりちょっと速いだけ。料金は二倍以上となる。そういう仕組みになっている。
▲中国第九位の人口、交通の要衝に突如やってきた開発大ブーム
前置きが長くなった。この武漢が西側マスコミの争点となっている。武漢に象徴される過剰投資の行方、不動産投資への変調が、これからの中国経済をどれほどの爆発力でゆがめるか?
現在武漢では5000件以上の公共プロジェクトに沸き上がり、今年度の予算だけでも予想歳入の五倍に達している。ファイナンスをいったいどうしているのか、初歩的疑問もわくであろう。
武漢の人口は9百万人。建設中の地下鉄は全長が224キロにも及ぶ。上海、北京、広州に次ぐ営業キロがいきなり実現する?
武漢は「中国のシカゴ」を狙い、また「第二の上海」として金融街も建設している。ところが地下鉄は深さ18メートルから26メートルのところを掘っているので、地下水、それも泥水の流入が激しく、工事関係者は「50メートルの深さが必要ではないか」と不安視しているという。
武漢の野望は地下鉄だけではなく、新しく二つの空港ターミナル。金融街、河畔プロムナードなど巨大プロジェクトが同時進行中で、総額投資は1200億ドル(9兆6000億円相当)。桁外れである。
まさに各都市が開発を競合しあい、財政支出の将来的負担、不安を顧みないで、「摩天楼に地下鉄にiパッドというドンチャン騒ぎ」(NYタイムズ、7月7日付け)を演じているのである。
財源をどうしたかと問われて、長江にかかる橋梁の通行料金と市幹部が答えたが、そんな程度でまかなえる訳がなく、さしあたって年内の返済金は23億ドルある。
もとより巨大プロジェクトの財源は武漢市政府が借りたのではなく、地政府は土地を売却して150億ドルを確保したに過ぎない。
のこりはアーバンデベロプメント&インベストメント(UCDI)という第三セクター的な開発機関が、国有銀行からの借入金でまかなってきたのである。それでも不足するので、UCDIが社債を起債して投資家から資金を集めた。
「中國の隠れ不良債権は天文学的」としてムーディズの評価を待つまでもなく、すでに国際金融界では中国バブルの瓦解が秒読みという予測は普遍的であり、本当の不良債権は「米国のリーマンショック以前のバブル飽和の規模を上回るだろう」というのが、半ば常識である。
それでも開発スピードを緩めようとしない。北京が圧力をかけても、地方都市はまったく異なる論理に基づいて走る。暴走する。
これぞ、まさに「開発暴走」である。「地下鉄を掘って、掘って、掘りまくれ!」と呼号する武漢市書記には「ミスターここ掘れ」という渾名がついたそうな。
▲GDPの70%が不動産投資という狂乱の数字は「現代史に存在したことなし」。
GDPの70%が不動産投資。この中国経済の異常な数字は「現代史に存在したことない異例な数値である。日本のバブル崩壊直前でもGDPの35%だった。サブプライム以前の米国のそれは20%内外でしかなかった」(前掲NYタイムズ)
将来の借金比率、不良債権の総額がどれほどになるか、しかも、地方政府保証ではなく第三セクターの開発公社がかりいれ、さらに債権を起債している。投資家が将来こげついても、責任は地方政府が負う筈はないし、もともと国有銀行からの借り入れが主だから、大やけどをするのは中国国有銀行、とりわけ中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行である。
だからムーディズは7月5日に、中国のメジャーな銀行の格付けを下げたのだ。
武漢のケースではUCIDの負債は140億ドル。従業員は16000名、子会社が25社。債権は土地が担保で150億ドルと見積もられるが、日本のように土地が暴落すれば、たちまち債務超過に陥るという図式は中学生でも分かるだろう。
この類似パターンによって開発費用を国有銀行から借りている構造。中国全土でおよそ、一万件が同様なスキームとなっている。
けっきょく誰が最終的にババを引くか?不良債権は中国全体で4600億ドル(36兆8000億円)と見積もられるが、どう見ても少ない。米国のリーマン危機からの脱出に際して、7000億ドルの救出予算が取られた。「それより多くなるだろう」と専門家はみている。
未曾有の危機とは、つまり中国の国有銀行の危機である。預金する中国国民の損失も天文学的であろうし、債権者には外国金融機関、機関投資家も多数含まれている。
杜父魚文庫
8116 GDPの70%が不動産投資、都市建設の中国経済は、もはや危険水域を越えた 宮崎正弘

コメント
<< 宮崎正弘氏の日頃のご主張 >>、全面的に賛同いたします。
今回の記事ですが、その中ほどに;
> もとより巨大プロジェクトの財源は武漢市政府が借りたのではなく、
> 地政府は土地を売却して150億ドルを確保したに過ぎない。
とありますが、疑問が2つほどあります。
1.中国の土地は全て「国有地」であり、「賃貸」は可能であるが、
「売却」は出来ず・私企業の「土地所有」は不可と聞いています
2.「地政府」とありますが、「地方政府」のtypoでしょうか
「宮崎正弘氏」のご活動については、チャンネル桜へのご出演とか・
ご著書とかから、「日本の国益」をベースに主張される「真の国士」
と認識しております。
ですが、ご発言内容を拝見していると、その「取材源はどこか?」と
いう素朴な疑問も禁じ得ません。例えば;
1.一般旅行者では立ち入ることが不可能なエリアでの「写真」を
提示して詳細な説明をされている。
2.宮崎正弘氏が中国語に堪能なのかは存じ上げませんが、単独で
その様な「 forbidden-area 」へアクセスできるのでしょうか。
いわゆる「現地ガイド」付きの取材かも知れませんが、
「現地ガイド」って中国政府の監視役ですよね。
3.宮崎正弘氏は「反中国分子」として著名な存在と思われ、また
中国の公安当局から当然マークされていると認識しています。
どうして入国ビザが発給され続けているのか。
例の「百人斬り訴訟」に関連して、長年にわたって中国入りを
認められていたメンバーに、入国ビザが発給されなくなったと
いう事例も報道されています。
「取材源」を明かさないのは、「ジャーナリスト」の常道と一蹴されるかも知れません。
私めのコメントが、「杞憂」あるいは「下司の勘ぐり」であることを心から念じております。