江西省鉱山マフィアを北京や広州の企業が行って制圧、再編できるのか?レアアースは、尖閣沖衝突事件の「報復」であるかのように中国は巧妙な理由をつけて対日輸出を制限、2010年10月からは一部、出荷停止として日本を慌てさせた。輸出制限は明らかにWTO違反である。
レアアースをガラス産業に多用する米国がまず怒りを表して、WTOに提訴した。
日本はこの提訴には加わらず「上品」なところをみせてきた。この間にレアアースの代替供給源をもとめて日本の商社・メーカーは世界各地を探索し、カザフスタン、豪州、ベトナムなどで鉱区開発に着手した。また太平洋の深海にも大量のレアアースが眠っており、将来の供給には心配がないと喧伝された。
問題は「いま」、これから向こう一年間の供給である。日本のメーカーは在庫をほぼ使い果たし、原材料回収のリサイクルにも限度がみえ、そろそろ深刻な局面にさしかかっていることだ。
したがってWTOに敗訴した中国が供給に前向きになるか、どうかの政治判断が待たれるところだ。
もともとレアアースは「レアメタル」(希少金属)「ストラテジックミネラル」(戦略物資)のカテゴリィには入っていなかった。後者は軍事物資に直結する材料であり、チタンとかコバルト、ニッケル。前者と重なる鉱物資源も多いが、従来の国際政治学では南ア、アンゴラ、中央アフリカ、ロシア、カザフスタンなどが戦略地点と考えられてきた(詳しくは拙著『もうひとつの資源戦争』、講談社を参照されたい)。
レアアースとは希土類元素を意味し、現段階で17種類が確認されているが、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、カドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム。
これらの希土類は磁性が強いために携帯電話の部品、発光ダイオード、電池、液晶パネル、ガラス材料などに使われる。ハイテク産業の伸張とともに、注目されてきた。
レアアースの埋蔵は全世界に9900万トンと見積もられ、年間消費は15万トン、これから新鉱山が開発されると、いまの中国95%という寡占体制がおわり、三年後にはむしろダンピング競争が始めるだろう。
▲内蒙古省と江西省南部から広東省にかけて鉱山マフィアが闊歩
さて中国は目先の利益を独占することにかけては世界一流である。レアアースの中国における鉱区は内蒙古省である。
この場所で生産されるレアアースは、じつは胡錦涛率いる『団派』の利権であり、パオトゥ(包頭)にある内蒙古剛希土高科技集団が独占している。この産地の希土類が日本のハイテク産業に不可欠の材料なのである。
もう一つ、レアアースの大量埋蔵が確認されているのが江西省と広東省の省堺の山岳地帯で、既報のように、ここは鉱山ギャング、地元マフィアと怪しげな資本家が跳梁跋扈してきたため収拾がつかなかった、いわくつきの土地である。
業者が数十入り乱れ、現場では鉱区をめぐる縄張り争い。そこで中国政府は集中再編に乗り出し、当該地区の企業を三社に限定し、ビジネスを収斂させることを決定した。
北京にある中国有色金属建設と、江蘇省の宣興新成集団がレアアース事業を統合する新会社を、広州に設立するほか、あと一社しか認めないという方針を打ち出した。
だが鉱区は山岳地帯、山賊のようなマフィアが削岩、採掘技術をもっており、都会からビジネスエリートが乗り込んでも統制はとれず、密輸が焼結を究めることになるだろう。実際に内蒙古でもレアアース倉庫がしばしば襲撃され、ギャング団の資金稼ぎの場と成っている。
江西省鉱山マフィアを北京や広州の企業が行って制圧、再編できるはずがなく、レアアース問題、中国がWTOに敗訴しようが、しまいが混乱はまだ続くのである。
杜父魚文庫
8118 中国、レアアース業界を大胆に再編へ 宮崎正弘

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