8131 辞めるに辞められない独裁者たちの末路 加瀬英明

金正日総書記が、足繁く中国を訪れている。中国の庇護が、いっそう大切になっているにちがいない。
5月に訪中したが、1年間で3回目だった。父親か、母親の膝に乗せられたような安心感が、えられるのだろう。中朝は一体なのだ。
今年に入ってから、北アフリカから中東まで、”反体制の嵐”が吹き荒れて、1月にはチュニジアの独裁者だったベン・ベラ大統領が追放された。エジプトに飛火して、30年も独裁を行ってきた、ムバラク大統領が追われた。ムバラク大統領はエジプトの世論の圧力によって逮捕され、拘束されている。
エジプトでは1952年に、ナセル中佐が率いる自由将校団が、ファルーク王制を倒した。ナセルは70年に病死した。部下のサダトがあとをとり、81年にイスラム原理主義のムスリム同胞団の将校たちによって、暗殺された。同じ軍人のムバラクが政権を継いだ。
エジプトは59年にわたって、軍部の独裁下にあった。そのもとで、ムスリム同胞団は弾圧されてきた。エジプトの民衆蜂起の騒ぎは、国防相による軍事評議会が全権を握り、9月に自由な選挙を行い、新憲法を制定すると約束することによって、いちおう鎮静した。だが、9月の選挙が問題だ。
エジプトで全国的に組織化されているのは、ムスリム同胞団だ。9月にエジプトを牛耳ることになったら、たいへんだ。エジプトはアラブ最大の国であり、アラブ諸国に大きな影響力を及ぼすこととなる。
いま、北アフリカから中東まで見舞っている嵐を、”民主化の強風”と呼びたくない。この地域のイスラム国家で、民主主義が行われたことは、一度もない。食料価格の高騰、高い失業率がもたらしたものだ。
バーレイン、イエメン、ヨルダン王国、シリアまで揺さぶっている強風は、サウジアラビアがエジプトも含めて、札束をぶつけて体制側を応援している。サウジアラビア自体の安定について心配する向きもあるが、国内で豊富な財力によって、バラマキを行っているから、大丈夫だと思う。
リビアでは、フランスがカダフィ政権を倒すのに御執心で、空からカダフィ軍を叩いている。だが、反乱が始まってもう3ヶ月以上になるのに、カダフィ大佐はよく耐えている。
それよりも、カダフィ大佐はやめたくても、やめられない。これは、独裁者全員の悩みだ。もし辞めたら殺されるか、裁判にかけられてしまう。だから、どの国でも長期政権になる。
アフリカのジンバブエのムガベ大統領も、悪名高い独裁者だ。31年も独裁を行ってきた。87歳になるが、今年催される大統領選挙に出馬することを、明らかにしている。
アメリカ政府は独裁者たちが辞めないのに、手を焼いている。そこで、アメリカ国務省が、ボストン大学に特別講座を設けて、独裁者たちに”引退後の花道”を用意している。この講座の特任教授になれば、国際司法裁判所に対して免訴権を保障し、持ち込んだ一定額の預金も保護される。
ザンビアのカウンダ元大統領が、ボストン大学のこの講座の恩恵を蒙っており、アフリカの現役の独裁者たちに、招きの手を差しのべている。
1月には、オバマ大統領がアフリカのコートジボワールの独裁者であるグバグボ大統領を、ボストン大学講座の特任教授として招待したが、断られている。
カダフィ大佐にも、裏からそっと招待状が届けられているだろうか。私はカダフィ教授の特別講義を、ぜひ、聴講したいものと思う。
北アフリカから中東までの嵐によって、金正日総書記だけではなく、北京の権力者たちも、不安に駆られていよう。だから、中朝の最高指導者が肩を寄せて、きっと慰め合っているのだろう。
金正日、胡錦涛、温家宝3氏が、ボストン大学の教壇に立ったら、人気講座となろう。
杜父魚文庫

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