8136 脱原発宣言の看板だけ掲げた菅首相  古沢襄

菅首相の「脱原発依存」宣言は、脱原発を唱えることで、政権延命を図る思惑もあったことが否めない。これまで多くの混乱を引き起こしてきた”場当たり的言動”がまた繰り返されたとみる向きが多い。
しかし米ウォール・ストリート・ジャーナルは「退陣を表明した首相がエネルギー政策の大転換に手を付けることについては疑問の声も多く、政財界からの反発を招く可能性は高い」と疑問を呈した。国内でも読売新聞の社説が「脱原発宣言 看板だけ掲げるのは無責任だ」と厳しく批判した。
国民受けを狙って”看板だけ掲げる”のが菅氏の手法だが、それの具体的な道筋の方は見えてこない。小さな細かいことには気が回るが、大きな道筋や展望に欠けるので看板だけ掲げることで終わってしまう。そのあたりの場当たり的言動をメデイアから批判されている。
<【東京】菅直人首相は13日、今後のエネルギー政策について、これまで国策としてきた原子力発電には過大なリスクが伴うとし、「脱原発依存」への方針転換を打ち出した。
現行のエネルギー計画では、発電量全体に占める原発の割合を現在の30%程度から将来的に50%以上に引き上げることを目標としている。3月11日の東日本大震災による福島第1原発事故を受けて、菅首相の発言はこれまで、原発の割合を引き下げる意向を示す一方で再生可能エネルギーの推進と電力使用量削減の必要性を強調するものにとどまっていた。それが今回大きく変わった。
菅首相は記者会見で、「原発に依存しない社会を目指すべき」との考えを表明し、「将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」と述べた。
「脱原発」の時期的なメドは明言しなかった。復興基本法案成立後の退陣を表明した首相がエネルギー政策の大転換に手を付けることについては疑問の声も多く、政財界からの反発を招く可能性は高い。菅首相は先週、全ての原発に対してストレステスト(耐性評価)」を実施する意向を突然表明し、現在運転が中止されている原発の再稼働を認める判断を留保したことで、すでに猛非難を浴びている。
与謝野馨経済財政担当相は同日、脱原発の議論について、エネルギー政策全体の整合性を考える必要があり、福島原発事故の影響が収まってから将来の政策選択をすべきとの見解を明らかにした。与謝野氏は、「脱原発は簡単に言えるが、代わりに化石燃料を使うと、法人税3割増税と同じコストアップが発生する」と述べた。
菅首相も同様に、原発依存を縮小すれば火力発電による発電量を増やして一部穴埋めをする必要があるため、短期的には化石燃料の消費量増加につながるとの見通しを示した。政府は2020年までに二酸化炭素排出量を1990年の水準の75%まで減少させる目標を掲げており、これには原発による発電量の引き上げが前提となっていたため、エネルギー政策の転換はこの目標達成にも疑問を投げかけることになる。
資源の乏しい日本にとって脱原発への転換は化石燃料の輸入依存が高まることを意味しており、資源価格変動の影響をさらに受けることになる。また、原油、石炭、天然ガスなど世界中の資源供給の確保に巨額の投資を開始している中国、インド、韓国などアジア諸国との競争激化にもつながる可能性もある。
菅首相の記者会見に先立って発表された月例経済報告では、電力の供給制約が脆弱な経済の足かせになる可能性が指摘された。日本経団連は、電力不安が長引けば生産拠点の海外移転が進むと警告している。
国民投票や政府の様々な議論を経て脱原発への方針転換を決めたイタリアとドイツと異なり、菅首相の政策転換は突然だった。国民の強い批判を浴びるだけでなく与党内の反発も必至である。毎日新聞が7月4日に公表した世論調査では、37%が定期検査のため停止している原発の運転再開に賛成と答えた。
菅首相は脱原発を争点にした衆院解散・総選挙を行う可能性については否定したが、国民はエネルギー政策を選択する権利があると述べた。また、定期検査のために停止している原発の運転再開はあり得るとしながらも、節電の取り組みが継続すれば現行の電力供給で今夏と冬は乗り切れるとの認識を示した。
東日本大震災による発電所の稼働停止の影響で、東京などの地域は最大電力使用量を15%削減するよう求められている。政府はまた、電力系統の異なる西日本にも電力使用制限の拡大が必要かを検討する予定である。
菅首相は福島第1原発事故の発生直後に、2030年までに発電量の半分以上を原発で占める目標は見直されるべきと語っており、エネルギー政策転換の意向を示唆していた。
原発について、菅首相は、「これまでの安全確保という考え方だけでは律することができない技術だと痛感した」と述べた。(ウォール・ストリート・ジャーナル)>
<<脱原発宣言 看板だけ掲げるのは無責任だ(7月14日付・読売社説)>>
深刻な電力不足が予想される中で、脱原子力発電の“看板”だけを掲げるのは無責任だ。菅首相は13日の記者会見で、「原発に依存しない社会を目指すべきだ。計画的、段階的に依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」と述べた。
日本のエネルギー政策を大転換する方針を示したものだが、原発をどのように減らしていくのか、肝心の具体策は示さなかった。原子力発電を補う代替エネルギーの確保策が、不透明なままだったことも問題である。
首相は、太陽光や風力などの自然エネルギーを「ポスト原発」の有力候補と考えているようだ。自然エネルギーの普及は促進すべきだが、現時点では総電力の1%にとどまり、発電量は天候などで変動する。コストも高い。
量と価格の両面で難題を抱えており、近い将来、原発に代わる基幹電力の役割を担えるほど見通しは甘くない。火力発電で急場をしのげても、燃料費がかさんで電力料金が上がれば、産業の競争力低下を招く。工場の海外移転による空洞化も加速して、日本経済は窮地に立たされかねない。
安全確保を徹底しつつ、原発利用を続けることが、経済の衰退を防ぐためには欠かせない。首相はまた、当面の電力不足について、節電などで「この夏と冬に必要な電力供給は可能だ」との見通しを述べたが、その根拠についての言及はなかった。
企業の自家発電など「埋蔵電力」も活用できると見ているようだが、どの程度の供給余力があるのか、手探りの状態にある。代替電力の展望もないまま原発からの脱却ばかりを強調するのは、あまりにも非現実的だ。
原発のストレステスト(耐性検査)を巡る閣内不一致によって、九州電力玄海原発など、定期検査で停止している原発の再稼働に見通しが立たなくなっている。首相が、ストレステストの判断が妥当なら「再稼働を認めることは十分にある」と述べたのは、当然のことである。
ただし、脱原発を掲げる政府が運転再開を求めても、地元自治体は戸惑うだろう。
首相には、福島第一原発の事故に伴う国民の不安に乗じ、脱原発を唱えることで、政権延命を図る思惑もあったのではないか。場当たり的言動が、多くの混乱を引き起こしている。首相は、そのことを自覚すべきだ。(読売)>
杜父魚文庫

コメント

  1. 小野真 より:

    延命策でも看板でも良いと思います。種々の面で具体策が欠けるとと批判しますがこれから考えればよいと思います。現状、当事者である東電,それを指示する役所でさえ、技術的にどのょうにして収束するか困難を極めているではありませんか。ましてや当初プロまがいの菅総理がうろうろしても,思いもよらない事故であり誰方がしても順調にはいかないのではないでしょうか?ましてや,菅総理自身で作ったとはいえ、ねじれ国会では。
    現状、60krもはなれたたところのワラで牛が汚染されたりしており、静岡のお茶にも、また子供にまで影響を及ぼしていたりとさまざまの面で放射能が拡散しとどまるところを知りませんね。生活面の不安も拡大していますね。損害補償もとどまるところを知らないでしょう。補償も東電が負担し不足は国が負担せざるを得ないでしょう。これも原発のコストであり高くつきますね。こんな事態なのに脱原発にしたら電力不足とかコストがあがり、企業は海外え逃避するから脱原発どころか再稼動を急げなどと主張する経団連会長は日本の人かなあと疑問に思います。逆に経団連としては企業に逃避しないよう呼びかけるべきではないですか。読売、日経にしても経済優先の社説ですね。政府や菅総理の早期退陣のみいわれますが、その方々は現状事故を収束させる方策があるのでしょうか?疑問に思います。別の面で原発関連の最終処理方法もできていません根。広い米国でも困難視しているようですが、原発を進めていけば膨大な量になりますが日本はどのようにするのか実際、、可能なのでしょうか?国民の生活の安全、安心が失われるようでは経済的発展の価値はありません。世界で唯一つの被爆国画放射能を世界に拡散しないよう福島の事故を収束させなければと祈るばかりです。

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