菅政権についてのアメリカのメディアの報道紹介を続けます。雑誌「正論」に書いた私の記事の転載です。今回の部分は菅直人首相の危機管理の稚拙さを伝えています。
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同時に菅首相がアメリカ・メディアからポジティブな扱いを受けない別の理由は福島の原発事故への対応の不備である。
菅首相が福島第一原子力発電所での爆発や放射能漏れにどう対処してきたかは、米側の大手メディアは徹底した検証報道を続けてきた。
この熱心さは当然ながら日本の政治や政治家としての菅氏への関心ではない。日本の政府の原発事故への対応上のミスや不備はアメリカにとって、重大な他山の石である。
日本が原子力発電の不測の事態にどう対応したかはアメリカ全体にとって真剣な関心事なのだ。
この角度からの米側の報道ではニューヨーク・タイムズ六月十三日付の東京発の長文の記事が象徴的だった。
この記事には「核の危機での有害な不信」「疑わしい首相の混乱した対応」「原子力危機で不信から混乱が生まれた」という見出しがついていた。
記事の要旨は次のようだった。
「原発が水素爆発を起こしてすぐ、菅首相は原子炉の冷却に海水を注入することのリスクについて補佐官たちに質問した。菅氏は自らの政治経歴を産業界と官僚との癒着に疑惑を抱くことによって築いてきたともいえる。そのうえに東京電力への深い不信を抱いていた。だから海水の注入についてもどの報告をも信用せず、その結果、確実なことはなにもわからない状態にあった」
「菅首相を中心とする日本政府部内の混乱は原発の危機への適切な対応を遅らせ、アメリカ政府を心配させ、その結果、アメリカ政府が日本政府にもっと敏速な行動を取り、重要な情報も米側とシェアすることを要求した。
菅首相は当初、米側からの原発用の特殊なポンプ・トラックや無人機の貸与や専門家の助言を受けることに難色を示したのだ。そのことが米側の信頼をすっかり失わせることとなった」
「菅首相は首相府に一九八六年から存在した危機管理システムの『内閣安全保障室』(後に『安全保障・危機管理室』)を無視することを決めた。そのかわりに各省や民間から自分で選んだ少人数のアドバイザーの集まりに危機への対応を任せようとした。だがこのアドバイザーたちはこの種の危機対応の経験が少なく、危機管理の手段の全体像をつかんでもいなかった。その結果、菅首相自身が原発関連の危機の深刻さや規模をきちんとつかむことができなかった」
この種のレポートがきわめて詳細に、しかも当事者たちからの直接の取材をもとに書かれていた。このニューヨーク・タイムズの記事から浮かぶまず最大のイメージ、というより実像は、やはり菅直人氏の欠陥であり、過誤だった。(つづく)
杜父魚文庫
8158 菅首相は危機管理に失敗した 古森義久
古森義久
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