菅首相の退陣のさせ方に関して、佐々淳行氏がおもしろいことを書いています。
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<【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 菅首相退陣に言論界立ち上がれ>
政局は混迷の度を深め、議会制民主主義は衆参ねじれ現象もあって、機能停止に近い憂うべき状況にある。国会は6月2日の不信任案の否決以来、支持率 10%台半ばの菅直人首相が自分から辞めると言い出さない限り、首相を辞めさせる術がないという、間接民主制の思わざる欠陥に直面して、自己浄化できない ありさまだ。
筆者はつとに民主主義の原点であるギリシャ都市国家の民主制に立ち戻り、有権者の手で僭王(せんおう)を追放したオストラ シズム(貝殻投票)の導入を説いてきた。地方自治体同様に、国政でも不適当な首相をリコールできるようにすべきなのだ。そのために憲法改正に限定されてい る国民投票法を改正して、有権者は首相を選べないものの追放はできるようにすべし、というのが筆者の所論だが、今すぐというわけにはいかない。
≪岸氏に引導渡した7社共同社説≫
代わりに、時の岸信介首相に退陣を余儀なくさせた、1960年6月17日の「7社共同宣言」の“菅直人版”を提案する。朝日、毎日、読売、産経、日経、東 京、東京タイムズの日刊7紙の行動は、「7社共同社説」とも「同宣言」ともいわれている。第一次安保の時、マスコミの良識を世に示した壮挙は、日本を二分 する内紛を沈静化させ、岸首相を挂冠(かいかん)に追い込み、戦後60余年の日本の安全保障政策を決定づけた。まさに日本の運命を分けたものだった。
第一次日米安保反対闘争(60年安保)は、国論をそれこそ真っ二つに割った大政治紛争であった。自由民主主義の米国につくか、それとも全体主義、共産主義 のソ連を選ぶか、歴史の分岐点だった。60年1月19日に日米両政府により調印された日米安全保障条約は、5月20日に衆議院で強行採決され、以降、全学 連、社共総評など反対勢力の万を超す大デモ隊が連日、国会を包囲、霞ヶ関、永田町は赤旗の海となり、社会・政治不安はいやがうえにも高まった。
そして、6月11日、「ハガティー事件」が起きた。アイゼンハワー米大統領の初訪日準備で来日したハガティー大統領補佐官を、全学連が羽田で襲い、補佐官 は米軍ヘリで脱出。岸政権は、大統領の身の安全を保障できないという国辱的な理由から、涙をのんで、訪日の延期を要請し、大統領はマニラから帰米したの だった。
≪民主主義死滅するとの危機感≫
6月15日、全学連と機動隊が衝突して流血の惨事となり、東大生の樺美智子 (かんば・みちこ)氏が圧死した。この深刻な治安悪化を見て、朝日新聞論説主幹の笠信太郎氏が奮起し、新聞協会の江尻進事務局次長と毎日論説委員長の池松 文雄氏、読売論説委員長の愛川重義氏が朝日の論説主幹室に集まり、16日夜に文章を練り、全文519字の共同宣言文ができ上がった。警視庁の原文兵衛氏も 笠氏を訪れて協力を懇請している
「アイゼンハワー訪日延期」がトップ記事となった1面の中央で「暴力を排し、議会主義を守れ」と呼びか け、「6月15日の国会内外における流血事件は、そのことのよってきたる所以(ゆえん)は別として、議会主義を危機に陥れる痛恨事であった」と反安保闘争 の暴力を批判し、社会党に国会復帰を呼びかける内容だった。岸氏への批判や退陣要求はなかった。3大紙の共同宣言に、産経、東京、東京タイムズ、日経の4 社が加わって「7社共同宣言」となり、他の48社も同調してこれを掲載した。
これを主導した笠信太郎氏の心中には、戦前、特派員として 駐在したドイツにおけるワイマール共和国の衰亡とナチスの台頭の姿が去来していた。安保闘争が暴徒化すれば右翼の暴力を呼び、それが取り締まり強化を招 き、強権国家が生まれて民主主義は死滅しかねないという危機感である。
≪政治は60年安保時並みに深刻≫
この「7社 共同社説」は、暴力化の一途を辿(たど)った反安保闘争にブレーキをかける効果があり、岸退陣声明後、闘争は沈静化した。今、日本は再び、親米と親中の二 極化の危機に立つ。小沢一郎元代表、鳩山由紀夫前首相、菅首相、仙谷由人前官房長官ら民主党の指導層は、急速に覇権国家の様相を帯び始めた中国に媚態(び たい)を示し、核武装が進む北朝鮮に脅(おび)え、普天間移設、尖閣問題など独立主権国家として恥ずべき弱腰ぶりだ。
国民の9割が「菅氏は辞めるべし」と不満を示しているにもかかわらず、首相であることが自己目的化した菅氏は、原発問題で延命を図ろうとし、東北地方の被災民の塗炭の苦しみは4カ月も経(た)つのに一向、改善の徴がない。
政治が自己浄化できず、首相の誤れる「政治主導」で官僚機構が麻痺(まひ)している現在、言論界が立ち上がり、60年6月17日が最初で最後となっている「7社共同宣言」に当時は弱小だったテレビ各局も加わり、「菅首相、辞めよ」と宣言をする秋(とき)が来ている。
今日の事態は、民主党を持ち上げてきたマスコミにも一半の責任がある。特に朝日新聞は、笠信太郎氏の勇気を想起して、このキャンペーンの先頭に立つべきだ。出でよ、第2の笠信太郎-。(さっさ あつゆき)
杜父魚文庫
8197 菅政権の倒し方 古森義久

コメント
<狡兎死して走狗烹らる>
何100社集まって共同声明を出しても今の菅にとっては馬耳東風である。
民主党と菅にとってマスコミは自分たちの政権獲得と維持のための道具でしかなかったし、今でもそうである。
2009年のあのきちがいじみた朝日、毎日を筆頭とする反自民・反麻生キャンペーンの展開と民主党大嘘政策の宣伝に協力してきたマスコミは彼等にとっては格好の走狗であった。そんな愚かな走狗が今さら何匹集まって吼えても痛くも痒くもないのである。菅夫妻の哄笑が聞こえるようである。
忘れるところであった。民主党政権樹立に熱狂的に協力した国民も民主党と菅にとっては忠実なワンちゃんでしかない。
狡兎死して走狗烹らる。政権を獲得した今、二匹の走狗は煮て食われる運命なのである。
もう今の日本に議会制民主主義など存在していない。
欧州の民族主義者による大規模テロはもう我々のすぐ傍まで来ているのである。