8266 オバマはゴルバチョフか 古森義久

アメリカでのオバマ大統領の批判が高まっています。とくに首都ワシントンで政治に専門にかかわるプロたちからの評価が下がっています。
その中で印象に残ったのは「オバマ大統領は旧ソ連のゴルバチョフと同じ」とする論評でした。崩れることを運命づけられた統治システムをむなしく擁護する点が両者に共通しているとする酷評です。
<<【緯度経度】ワシントン・古森義久 酷評続々「冷淡なオバマ氏」>>
バラク・オバマ論がこのところ米国の論壇をどっとにぎわすようになった。行政や統治の経験がないまま超大国の元首となった初の黒人大統領オバマ氏がそもそもどんな人間なのか。わかっていたようで、どうもわからない。そんな懐疑や再考が評論家や学者たちからしきりに述べられるのだ。しかもオバマ氏の人間性の根幹にまで切り込む鋭利な批判が多いのである。
本来、オバマ支持とみられたリベラル派の政治評論家リチャード・コーエン氏は9日のコラムで「冷静な人が冷淡に」と題し、オバマ氏は人間らしい喜怒をあまり表さない、あるいは表せない性格なのだ、と論じた。債務上限引き上げの騒ぎで株が暴落し、国民の多くが経済への心配を深めた日、オバマ氏が豪華な50歳の誕生パーティーに平然とのぞみ、大声での会話を続けたことをとらえ、コーエン氏は「オバマ氏は温かい感情を他人に伝える能力に欠ける」とも断じた。そのうえで「彼は冷静なだけだと思っていたが、実は他の人間に対し冷淡なのだ」とも評していた。
保守派の論客ペギー・ヌーナン女史の7月31日のコラムはさらに厳しかった。「愛する気持ちをなくす」と題し、歴代大統領はいかに敵が多くても、一部に必ず熱愛する支持者がいたが、オバマ氏には「確固たる支持者はいても、熱愛する人はまずいない」と論評したのだ。なぜなら「オバマ氏は自分のフィーリングを決して素直にみせず、その言葉は真実さを感じさせないからだ」とまで書いていた。
保守派のオバマ批判はもちろんいま始まったわけではない。米国は世界の先導役を務めるべきだから特別なのだとする「米国例外主義」にオバマ氏が背を向け、高所得層への増税で富の再配分を図ろうとして「社会主義傾向」を示す点などから保守派は彼を「ホワイトハウスのエイリアン(異星人)」とも呼んできた。
だが民主党側のリベラル派までがオバマ大統領に否定的な診断を下すようになった契機は今回の債務上限引き上げ問題での彼の消極性だったようだ。リーダーシップの欠落であり、受け身に徹した姿勢だったともいえる。
自他ともに左派だと認める辛辣(しんらつ)なコラムニストのモーリーン・ダウド女史も10日の「引きこもり司令官」と題するコラムで「オバマ氏は2008年には米国を救済することを期待されて登場したのに、いまや自分を救済することが必要になった」と書いた。
「(今回の債務問題や米国債の格下げで)全米が元気づけと再創造を切望しているのに、彼は当惑したままだった」とも断じ、「指導力の欠落は驚嘆するほどだった」とまで非難した。そして「オバマ氏は半生を聡明(そうめい)、優越、冷静、不動というような自分の仮面を作ることに費やしてきた」と評し、だが実際には彼はとにかく対決を避け信念を通そうとしない、と論じた。
こんな批判の洪水のなかでは、オバマ大統領の政策に一貫して反対してきた保守派の長老政治評論家ジョージ・ウィル氏の「オバマ氏は崩壊を運命づけられた反動的リベラリズムの政策を実行しようとする点で新しいゴルバチョフなのだ」という評論が意外に温かく響くのだった。
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました