8337 欧米に輩出する”法螺吹き”  宮崎正弘

人民元が「REDBACK」と呼ばれ、世界の基軸通貨になる由です。欧米の経済メディアの視点と分析も、爆走する龍の勢いには勝てず?
世の中に正反対の意見を述べる人がいるものである。英国のメディアが特集で「REDBACK」という語彙を使い始めたのには、いささか驚かされた(英誌エコノミスト誌、8月20日号)。
米ドルは俗称「GREEN BACK」(券面がすべて緑だから)、となれば「REDBACK」が、どの通貨かは説明の必要がないだろう。すべてのデザインが毛沢東、赤で印刷された貨幣は人民元。
この人民元が世界市場を覆い尽くし、十年をまたずして米ドルに代替して基軸通貨になると大胆な予測をする経済学者やジャーナリストが、中国にいる法螺吹きならともかく欧米に輩出しはじめたのだ。
アーヴィン・サブラマニアン(ピーターソン国際経済研究所、在ワシントン)主任研究員は最新刊『日食――中国経済支配の影に生きる』のなかで、「中国経済の強さは想像以上に広範囲にわたっており、発展は西側の想像をこえる迅速さがあり、あたかも1870年代の英国、あるいは1950年代の米国のような世界経済最強国家に、やがて、それも十年以内に世界最強の経済をなるだろう」と言う。
2030年には中国の通貨「人民元が世界の基軸通貨になり米ドルと地位を交替する」とも予測する根拠のひとつに明代も宋代も、かつて中国文明、中国経済は世界を凌駕していた“実績”からの類推法である。
現実の数字を見ると納得しうる側面もある。
香港では人民元の銀行預金が可能だが、すでに2011年現在、預金総額は5500億元(2009年開始時期には僅か20億元程度だった)。邦貨換算で7兆円強!
▲人民元建て国債、社債も香港では飛ぶように売れる!
また中国の赤字国債を人民元建てで、香港で起債したところ、利息06%にも関わらず、31億ドル分(邦貨換算2500億円前後)が売り切れた。この中国人民元による社債の起債も広く香港で行われており、バイヤ
ーは主としてオフショアの投資家(タックスヘブンのヘッジファンドが主力だが、多くは華僑)。 第一号は07年中国発展銀行で次に世界銀行、ロシアの銀行、マック、ボルクスワーゲンなど80社がすでに人民元建て社債を発行した。
習近平がバイデン米副大統領の訪中にアテンドして四川省まで行っている間に、李克強は香港に現れ、金融関係者と重点的に会合を重ねた。
そして李副首相はここで演説し「さらなる規制緩和、金融、投資の自由化を実行する」などと前向きな発言を繰り出したのだ。
同行した王岐山が、国際金融方面の専門家だが、かれの立場を超える迅速は金融改革を訴えた(たとえばオフショアの人民元預金を、中国国内にそのまま人民元投資出来るような規制緩和など)。
こうした中国礼賛未来予測には、米国にも多くの反論が寄せられ、香港が拠点のBBVA銀行アリシア・ガルシア・ヘレンロ主任研究員はこういう。
「米ドル建て海外債権をかかえる中国は、もし人民元が基軸通貨となって米ドルと交替するというなら、中国はたちまち世界最大の債務国に転落するではないか」
ヘラルドトリビューン紙も「過去の類推パターン通りに未来が展開するとは限らないし、サブラマニアンの予測はバラ色に傾きすぎるだろうと批判している(9月1日付け)。
杜父魚文庫

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