8350 突然本命視され、オバマ陣営が警戒し、そして保守本流から疑念噴出 宮崎正弘

リック・ペリー(テキサス州知事)が共和党大統領候補になれる可能性は25%。オバマ再選のため対共和党イメージ作戦を立案しようにも、共和党の候補者選びはまだ右か左か、しかし共和党が政権を奪還する可能性は日増しに高くなり、オバマ再選に赤信号が灯ったのも事実だろう。
しかし共和党は三週間前まで本命視されてきたロムニー(前マサチューセッツ州知事)、それを追うミッシェル・バックマン(茶会推薦)、ペイリン(前アラスカ州知事)という状況だったのが、突如テキサス州知事がなのりをあげて大混戦となった。ニュート・キングリッチ、ロン・ポールら他の候補者は(まだ正式に名乗りをあげていないハッツマン前駐中国大使を含めて)圏外に去ったと見るべきだろう。
ロムニーの弱みは医療改革、福祉政策でリベラル色が強いことである。嘗てエド・ケネディ上院議員のリベラルな福祉医療改革に反対していたロムニーが、いま主張しているのはケネディ案と同じではないか、というのが彼を忌避する共和党保守派の弁だ。
バックマンの弱みは保守陣営にウケが良くても、共和党全体の支持がすくなく、またペイリンは、いまや過去の人。政治的には党内攪乱要素になりつつある。というのもミッシェル・バックマンが登場したことにより保守の票は、バックマンに流れたからだ。
ペリーという現職テキサス州知事の強味は、テキサスの景気の良さ。それはブッシュ前大統領を継いだ幸運、テキサスの石油産業興隆の幸運という偶然がもたらしたことに過ぎず、政治家の資質は未知数である。
そしていきなり本命視されると、一斉に身内から攻撃されるのもアメリカン・デモクラシーのアキレス腱。ペリーは20年前、民主党だった。共和党への鞍替え組である。
レースの序走段階で、各種集会に現れるとペリーの乱暴な言葉使いに多くの共和党支持者があきれた。ペリーの繰り出すテキサス訛りではない。荒っぽいことで有名なテキサス気質である。語彙が乏しく、言葉が下品であると反発が広がった。
当面、米国ジャーナリズムは、このテキサス州知事バッシングに邁進する可能性があり、茶会もバックマンへの支持に戻るとすれば、正式候補者指名獲得に距離が出てくるだろう。それにしても、選挙本番は来年秋。まだ予測を展開するには早すぎる。
  
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◆BOOKREVIEW ◆書評 ◇しょひょう ◇ブックレビュー ★
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宮田律『CIAとビンラディン』(ワニブックス PLUS新書)
欧米のメディアはリビアの機密文書からCIAとリビアの特殊な関係を暴いている(9月5日付け各紙)。そのタイミングで本書が刊行された。すぐに手に取った。通読して率直な読後感といえば、どこか違和感が残り、「変な感じ」なのである。
全体のトーンは要するにすべての悪はCIA、全世界で謀略ネットワークを張り巡らせ、一部の国では麻薬栽培も奨励している。ビンラディンは利用するだけ利用した後、CIAは邪魔になったので消したという論理で貫かれる。
911テロのアルカィーダ犯人説に疑問を投げかけるが、さすがにアラブ世界に流布している風説「あれはユダヤの陰謀」とは書いていない。だがペンタゴンに奇襲をかけた飛行機の残骸映像がない。貿易センターにつっこんだ二機の乗客達の遺族らはなぜ遺族会を結成しなかったのか、などの謎が力説されている。
局所的な真実を列記して、立花隆のように「木を見て森を見ない」リベラル左翼特有の解釈に走りがちとなる。またリチャード・パール、シュルツ、チェイニー、ラムズウェルドらは最初から最後まで、疑念の余地のない悪人に描かれているのも、彼らがネオコンだからだろう。
ご丁寧にロナルド・レーガンが「ド」ナルド・レーガンになっているのは誤植かな? ドナルドのほうは、ドナルド・「リ」ーガンのほうで、レーガン政権下の財務長官、後期は大統領首席補佐官だった。些末なことはどうでも良いが、さて。
先般の特殊部隊によるビンラディン殺害も、でっち上げであり、オバマにとってはアフガンからの撤退の口実であり、じつはビンラディンは六年前に死んでいる。パキスタンでは笑い話という筋書き。
そのうえ死体を水葬にして遺体の映像がない、襲撃に40分もかかったのは解せないなどと本書の著者は、やっぱり基本的に心情がイスラム贔屓ですね。
評者(宮崎)はなぜか、この場面で新撰組の池田屋襲撃を思い出した。あの日、新撰組主力部隊は違う旅館に行っていた。不逞の輩が京を焼き討ちにするという謀議の集合場所に関しては、複数の情報があった。
だから主力部隊の新撰組(土方ら多数)は他の二カ所へ行っており、池田家におっとり刀でかけつけるのは弐時間もあとになった。その間、三組にわかれた探索組の中で僅か六人が近藤勇と沖田総司、島田魁らだった。この僅か六人で二十数人の暴徒を相手に戦った。宮部鼎蔵、吉田稔麿ら攘夷過激派が殺害された。実は土方ら新撰組主力部隊が池田屋へ応援にかけつけるのに手間取ったのは、これと目をつけたほかの旅館の複雑な建築的構造である。
三条木屋町にあった池田屋は旅館である。当時、京都の旅館は表通りは狭いつくりだが、家屋は奥に細長い上、迷路のような設計。これは京の茶屋、遊郭に共通する。ところが地下道が鴨川に繋がっていて、長いトンネルとなっている。これを土方ら主力部隊はほかの旅館の地下で、蝋燭片手に慎重にじわじわと探索したのだから、時間がかかった。
ビンラディンの隠れ家奇襲も同様にして、時間がかかったのだろう。米軍特殊チームの最大の間違いは水葬がイスラムの習慣だと発表したことである。海軍の名誉である祭礼儀式は、イスラム教徒にはない。とくにワッハーブ派のサウジアラビアでは忌み嫌われる。これは失敗だった。
  
杜父魚文庫

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