中国の海洋戦略をアメリカはどうみるか。東京での講演の紹介を続けます。
今回は中国が海洋での領有権をいかに理不尽であり、いかに論拠薄弱であっても、国際調停を一切、拒み、妥協や譲歩を一切、拒んで、従来の野心的な主張を続けていくという実態について、です。
つまり紛争の相手は中国との間で「永遠の摩擦」を覚悟しなければならない、というのです。
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南シナ海での中国のこうした動きには当然ながら東南アジア諸国が強い懸念を抱いています。脅威を受けているともいえます。東南アジア諸国側はそのため ASEANが一体となって中国と折衝を重ねてきました。
2002年には中国とASEAN諸国の間で南シナ海での紛争についての「行動宣言」を採択しています。この宣言は紛争の平和的解決や多国間での解決をうたい、さらにその内容に拘束力を持たせることをも規定していました。
しかし中国は一貫して、これらの 諸点には態度を左右にして、応じませんでした。宣言に同意しても、拘束力がなければ、実効がありません。
今年7月にバリ島で開かれたASEAN外相会議で もまたこの9年前の「南シナ海行動宣言」にどう実効を持たせるかが論じられましたが、目だった進展はありませんでした。
中国のルール違反の行動がまかりとおるのはやはり、東南アジア諸国が軍事面で中国とくらべれば、あまりに弱体だからだというのがアメリカ側専門家の本音のようです。
こうして中国の海洋戦略の硬直性、とくに主権の主張の強硬な実態をみてくると、南シナ海や東シナ海での領有権紛争はどうしても、国際調停は不可能、多国間の 交渉もまず困難という構図が浮かんできます。
たとえ二国間交渉でも中国は譲歩しない。となると、中国の主張に全面的に屈しない限り、紛争はどこまでも続くことになります。
この点をアメリカの専門家たちは「永遠の摩擦」と表現しています。
日本が最大の関心を持つ尖閣諸島についてはさきに申した中国海洋研究所のダットン所長がおもしろいことを述べていました。
その趣旨は、中国は南シナ海での明 確で直線的な態度と異なり、尖閣に対してはあまり攻勢的、攻撃的ではない、曖昧な態度を保っているが、それは紛争相手の日本が東南アジア諸国よりも強い立場にあるからだ、というのです。
領有権の主張の論拠にしても、また同盟国アメリカに支援されての軍事的能力の高さにしても、中国はまだ南シナ海でのように実際の軍事行動や威嚇行動に出ても 決して有利な立場には立てないと判断しているのだというのです。
だからその力のバランスが中国にもっと有利になるまで、じっと待つだろう、という考察でした。(つづく)
杜父魚文庫
8397 中国は領有権で永遠に譲歩はしない 古森義久

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