8419 野田首相はジキルかハイドか 古森義久

野田佳彦という政治家はなにを信奉しているのか。なんのために政治家をしているのか。そんな疑問が大きく浮かびます。
なぜなら政治家としての野田氏がこれまで堂々と主張してきたことと、首相になってからの言動とがあまりに異なるからです。
靖国神社参拝しかり、外国の日本領土侵害への対応しかり。これまで彼が述べてきたことと、今述べていることとでは、ジキルとハイドの違いです。野田佳彦は二人いるのか。
いったいどちらがホンモノの野田佳彦氏なのでしょうか。このジキルとハイドの相違を以下の記事がうまく描写しています。
【酒井充の政界××話】
野田佳彦首相ほど、永田町で悪口を言われない政治家は珍しい。9月8~10日付の産経新聞で「野田佳彦の実像」を3回に渡って掲載した。同僚とともに野田首相の知人らへの取材を進めると、「まじめ」「いばらない」「人の話を良く聞く」といった話ばかりが集まってきた。私自身は一度も接したことがないが、恐らく「いい人」なのだろう。
紙幅の関係で掲載できなかったが、例えばこんなエピソードもあった。野田首相は再選を期した平成8年の衆院選で105票差で落選した。12年に国政に復帰するまでの間、松下政経塾の後輩が地方選などに出るたびに応援のため全国を駆け回った。
ある地方選では後輩の候補者の陣営に詰める学生ボランティアが前国会議員の野田首相に対し、ビラ配りを命じた。野田首相と言えば、駅前演説で鍛えた街宣活動が持ち味だ。だが、野田首相はマイクを封印されたことに文句一つ言わず「分かりました」と指示に従った。
陣営内で「野田さんにそんなことをさせるとは失礼だ」との声が出ると、野田首相は「選挙にはそれぞれのやり方があるんだ。それに従うべきだ」と笑顔で応じたという。プライドの高い人が多い国会議員(経験者)にはなかなかできないことだ。
そんな「いい人」が首相になった。発言が「宇宙人」な鳩山由紀夫元首相、誠実さのかけらもなかった菅直人前首相と比べれば、ますます「いい人」に見える。問題は「いい人」が「いい政治」を実行できるかどうかだ。
外交に限ってみれば、「いい人」は結果的に「悪い人」になりうる。日本の国益追求のために世界の首脳と渡り合う首相が、他国からの挑発や無理難題に対して音無しでは、国益を失うことになりかねない。
野田首相は21年7月の著書「民主の敵」で、「国境に関しての干渉には国威をかけて対応すべきだ」と指摘している。その通りだ。国際社会では、例えば領土、領海、領空の侵害に対して抗議しなければ、その主張が間違っていても既成事実となりうる。
ロシアは8日に空軍爆撃機が日本列島を1周半し、9日には海軍の艦艇24隻が宗谷海峡を通過した。いずれも国際法に違反はしていないが、挑発的な行為であることは間違いない。中国もどさくさに紛れるように8日に空軍機が東シナ海の日中中間線を越えてきた。韓国では最近、元「従軍慰安婦」を支援する団体が計画するソウルの日本大使館前の路上の「記念碑」建立が許可された。
ところが野田首相は何もメッセージを発していない。21日に米ニューヨークで行われた李明博大統領との日韓首脳会談では、「記念碑」どころか韓国が不法占拠する竹島問題も取り上げなかった。同じく同日の日露外相会談でも玄葉光一郎外相はロシア軍の挑発に触れなかった。抗議どころか、懸念すら表明しないのは、どういうことか。
野田首相は保守政治家を自任しているらしい。「らしい」というのは、極めてその言動が怪しいからだ。野田首相は21年3月、自ら音頭をとって政経塾OBら とともに「私たちはどのような国をめざすのか」との私家本を出した。内容は、まさに「東京裁判史観」の否定本で、野田首相は「A級戦犯と呼ばれる人たちは国内法では罪人ではない」と主張している。こんな記述もあった。
「日本の首相の靖国神社参拝や歴史教科書に対して中国や韓国は必ず干渉してくる。事あるごとに中国は南京大虐殺を持ち出し、韓国は従軍慰安婦を持ち出すが、そのたびに日本政府は頭を垂れて謝罪を繰り返している有様だ」
ところが、首相になると、靖国神社の公式参拝を「総合判断して」行わないと明言した。「A級戦犯」についても「政府の立場なので…」と言い訳をして、自らの見解をはっきり言わない。中国や韓国は、野田首相が就任すると「極右」とのレッテルを貼った。確かに首相が自説を貫いていたら、中韓両国は反発しいていただろう。
だが、自ら正しいと思った信念ならば、首相になったからこそ貫徹すべきではないか。それができないならば、なんのために首相になったのか。
野田首相は20年10月の夕刊フジのコラムで「国難のときこそ民意を問うのが筋だ」と訴え、世界的な経済不安への対策を理由に衆院解散・総選挙を先送りした当時の麻生太郎首相を批判した。
いま日本は国難と言われている。野田首相よろしく言えば、いま解散しなかったら、いつ解散するのだろうか。それなのに野田首相は当面の解散を否定している。
揚げ足をとるつもりはない。これが10年も20年も前の話なら「変節」とは言わない。全部ここ数年の話だ。首相になって言動を変える人は過去にも多くいた。ただ、信念を通す保守系らしいようなイメージがあり、「いい人」の野田首相だけに、変節した場合の反動も大きいだろう。
「野田よ、お前もか」そんな声がふさわしい所以である。
杜父魚文庫

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