8424 12年前の「プーチン?フウ?」  古沢襄

1999年夏にシベリア旅行の帰途、極東のウラジオストクに立ち寄った。通訳についてくれたのはロシア極東大学で日本語を教える女性講師のボイコ・ユリア。小柄なインテリ女性だったが「エリツィンはもうお仕舞い、あとはプリマコフ大統領になる」と言うことがはっきりしていた。
ボリス・ニコラエヴィチ・エリツィン・・・ソ連邦崩壊後に華々しく登場したエリツィンはロシア連邦大統領としてロシアを主導した。しかし急速な経済改革が失敗、私が訪ロした頃にはキリエンコ首相が退陣して、エフゲニー・プリマコフ首相も解任されていた。
プリマコフは諜報機関KGBの出身でソ連邦崩壊後のロシアで対外情報庁(SYR)長官や外相を歴任している。ロシアは金融危機を乗り切るため、IMFに支援を要請、金融危機を沈静化させた。エリツィン大統領周辺の「セミヤー」「オリガルヒ」と呼ばれる側近グループの排除に乗り出し、ユーリ・スクラトフ検事総長に命じて汚職摘発を開始した。これによってプリマコフ首相の支持率は上昇した。
しかし危機感を持ったエリツィンによって5月に解任されたばかりであった。後任のステパーシン首相も三ヶ月で解任、そこで登場したのがロシア連邦保安庁長官のウラジーミル・プーチンだった。首相交代は8月。気まぐれのエリツィンのことだからプーチンの首も年内までは持たない・・・という噂がしきりであった。
だからボイコ・ユリアが「エリツィンはもうお仕舞」と言ったのは、かなり正確な情報になる。首相の首を次から次へと飛ばしていたら政権が持つ筈がない。事実、エリツィンはこの年の12月31日正午にテレビ演説を行い、電撃辞任を表明した。
しかし後継の大統領として、当時首相だったプーチンを指名したのだから、「プーチン?フウ?」と世界は戸惑った。あるのは諜報機関KGBの出身でロシア連邦保安庁長官から首相になったという暗いイメージでしかない。
西側のメデイアでもポスト・エリツィンを占っていたが、やはり有力視されたのは5月に解任されたプリマコフ元首相。同じ諜報機関KGBの出身であっても外相や首相を歴任して西側からは好感を持たれている。ボイコ・ユリアが「あとはプリマコフ大統領になる」と言ったのはあながち間違いとは言えない。
しかしソ連邦が崩壊したとはいえロシアはやはり独裁国家。大統領を辞任して引退するエリツィンがプーチンを後継指名して、プリマコフ説は消えた。この動乱の時期にロシアを訪れたわけだが、あれから12年の歳月が去った。「プーチン?フウ?」のプーチン氏が二度目の大統領になるという。ロシアの独裁国家はさらに強化されるのだろう。
杜父魚文庫

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