8499 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』から『とう小平伝記』に転身? 宮崎正弘

日本研究者(ジャパノロジスト)から「中国屋」に変身したエズラ・ボーゲル。あのベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が『?小平伝記』を刊行。
80年代の日本の読書界を風靡した大ベストセラーは『ジャパン・アズ・ナンバーワン』。80年代に米国へ行くと、どこでも日本のことで話題が持ちきり、嫉妬半分に歓迎された。『TIME』も『ニューズウィーク』も日本特集を何回も組んで、そのたびによく売れた。
「日本では朝夕の通勤電車に乗りきれず積みのこしがあるって?」「毎晩深夜まで働いて奥さんは黙っているって?」「子供たちのことを母親にまかせっきりって本当か?」など、どこでも質問攻めにあった。
いまから思えば懐かしいが、筆者も1983年にも米国の国務省から招待され、カリフォルニアの学園都市クレアモントで三週間、朝から晩までシンクタンク、学者、政党関係者などと議論した。
その頃の日本にフェミニズムは正確な理解がされておらず、キャリアウーマンは少数で、女子大生の就職先は限定されていた。
いまのように男女が簡単にくっついたり離れたりもしなかった。伝統的な倫理観と道徳がまだかろうじて残っていた時代だった。
60年代後半に浮上した日本礼賛論の担い手はハーマン・カーンだった。かれはハドソン研究所を主宰し、「二十一世紀は日本の世紀」と持ち上げ、また80年代には日本はいずれ核武装するだろうと発言していた。
ボーゲル(ハーバード大学名誉教授)が日本にそれほどの関心をなくし、頻繁に中国へ通っていることは、知っていたし、彼の息子ステーヴは日本の防衛問題専門家で、いまではスタンフォード大学バークレー校教鞭である
ボーゲル教授は過去十年間、殆ど沈黙してきたが、じつは大作の著述に専念していたのだ。「とう小平伝」をついに書き上げた。
題名は『とう小平 中国の変革』。なんと900ページもの浩瀚、なにしろインタビューした人だけでも14ページにわたって列記、膨大な時間とエネルギーをかけていることが分かる。
1979年に訪米したとう小平は当時のカーター大統領に鮮烈な印象を残した。科学技術を大いに学ばなければならないとしてとう小平は十三日間にわたる米国訪問の多くを先端技術や工場見学に費やし、すぐさま五十名の中国人留学生の派遣を決めた。傲慢な態度はおくびにもださなかった。
1980年、僅か五十名、翌年に米国への中国人留学生は千名を超え、80年代中央には一万名を忽ちにして突破した。
あれから三十年、世界に飛び出した百数十万の中国人留学生のうち、二十数万人が帰国し、ハイテク、IT、ファンド、そしてハッカー専門家も飛び出した。民主化運動はとう小平の弾圧開始以後、すたれた。
ボーゲルは新作の中で、冒頭にとう小平の訪米を分析して言う。
アイゼンハワー政権下、フルシチョフソ連首相が訪米したことがある。あちこちで派手な論争を挑んだ。ニクソン副大統領との台所論争は世界の話題となった。この場面はニクソン回想録にも写真入りででてくる。
フルシチョフの多弁と対照的にとう小平は謙虚だった。誰かれかまわず論争をふっかけたりせずに、ひたすら知識を吸収した。これからの中国の近代化になにが必要か、それだけを追求する旅だった。
とう小平は、米国、日本、アジアを訪問し、改革のスピードアップを決意し、そして中国は大きく変貌した。現在、全米読者界の話題をさらう著作である(ハーバード大学出版会。本邦未訳)。
      
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  読者の声 どくしゃのこえ 読者之声
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(読者の声1)中国の金融引き締め効果が思わぬところで出ているようです。サーチナの記事より、「中国温州で金融危機が急速に拡大、資金ショート続発で連鎖倒産も」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=1011&f=business_1011_218.shtml
(引用始め)「<中国証券報>浙江省温州市で民間貸出の資金ショートが続発している。企業の資金繰り悪化で社長の逃亡や自殺が相次ぎ、信用保証会社や銀行を巻き込んだ倒産の連鎖が深刻化している。10日付中国証券報が伝えた。
現地政府の関係者によれば、9月21日に温州最大のメガネ生産メーカーである浙江信泰集団の胡福林董事長が、債務を逃れるため米国に逃亡したのをきっかけに、翌22日だけで会社経営者9人が失踪。9月27日には温州正得利鞋業公司の沈社長が、債務超過などを理由に飛び降り自殺をしている。  
今回、資金ショートを起こした企業の多くは、不動産開発に手を出したり、むやみな事業拡大を進めていたようだ。2010年の同市の100強企業のうち、主に製造業に携わる40社以上が不動産開発にも進出していた。さらに賭け事などで高利貸しから借金を重ねる経営者が絶えなかったことも理由とみられる。
温州中小企業促進会の周徳文会長は、「有名な大型企業の経営者だけでも90人以上が行方をくらましている」と話し、統計が取れない中小企業はもっと深刻な事態ではないかと懸念する。(中略) 現状について担保会社の関係者は、「ある1社が債務超過で破産すれば、信用保証会社5社が巻き添えになり、それぞれの信用保証会社と取引する銀行5行までも影響を受ける。信用保証会社の資金繰りが悪化すれば、他の信用保証会社25社にも影響が出る状況だ」と説明し、「温州の金融危機は5の倍数で連鎖している」と声を落とす。 
以下略」(引用終わり)
いよいよ中国のバブル崩壊が現実になってきたようです。
それにしても博打、高利貸し、(海外)逃亡と相変わらずのパターン。これでも中国に進出する日本企業、自分の会社だけは大丈夫だと思っているのでしょうか。そんな中、東レグループの東レフィルム加工は台湾に進出しています。
http://flat-display.dreamlog.jp/archives/4523544.html
液晶ディスプレーでは輝度向上フィルム、表面保護フィルムなど多く使用されますが、震災の影響に加え、液晶パネルの導光板最大手の台湾企業から台湾進出を打診され、ハイテク企業に対する優遇法人税率が17%とシンガポール並みの低さだったことも進出を決めた一因だとか。
台湾元も10年前には1NT$=3.5円がいまでは2.5円とタイバーツ並みに安い。円高対応と今後の電力供給の安定化の見通しが立たない限り製造業の海外移転はさらに加速するかもしれません。(PB生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)温州は新幹線事故現場。そして温州人は「中国のユダヤ人」といわれるほど投機熱の盛んな地域。拝金主義と地下銀行と、そして高利貸し。今週の「TIME」(10月17日号)も、とうとう中国バブル崩壊大特集です。
杜父魚文庫

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