8512 人民元はむしろ下落する可能性のほうが高い 宮崎正弘

米国議会の「中国制裁法案」可決は「時代感覚」とタイミングが一年ずれている。人民元は下落の可能性が高まっている。
意外である。したがって「人民元切り上げ、さもなくば制裁を」と呼号する米国議会は国際金融情勢を読み違えている。(ま、米国はいつも誤断ばかりですから)。
第一に貿易黒字が劇的に減少している。いうまでもなく米国の不況とユーロ危機。欧米が輸入を激減させているからだ。
 
第二に不動産価格がとつじょ下落局面にはいり、年内に10-20%の暴落気味、この点はリーマンショック前夜の米国と似てきた。
第三は金融の行きつまり、過剰流動性が失われ、銀行の貸し出しが金融引き締めにより停滞。この状況では日本で消費者金融、マチキン、高利貸しが膨張したように、中国のプライベートファイナンスが急膨張している。
ヘラルドトリビューン(10月14日付け)にコラムを書いているジェイムズ・サフトによれば、「中国金融の五分の一は銀行を通さないプライベートファイナンスだ」と指摘している。
投機的投資という行動パターンは、サブプライム投機の米国と共通だが、中国は金融の仕組みが異なり、事実上の金融鎖国をしている。
米国は銀行がつぶれるが、中国は国有銀行をつぶさない。だから貨幣を増発し続け銀行の増資をえんえんと続行するだろう。
▲「中国の時代が来るが、それは始まると同時に終わるかも知れない」
しかも人民元は国際通貨ではない。したがって不動産バブル破綻と株式暴落、不況、貿易不振により外貨準備激減などの近未来を勘案すれば、人民元がこれ以上強くなることはありえないのではないか。
おりしもバンクオブアメリカ・メリルリンチ(以下「バンカメ」と略する)香港の特別報告がでて曰く。
「過剰流動の貸し出しに対して、リターンが少ない。正常な金融を度外視した貸し出しは、事実上銀行業務がマイナス利益、それによる不動産高騰。異常な投資の結末がインフレと不況、金詰まり。つまり経済状況は今後悪化の一途をたどるだろう」とバンカメのレポート分析だ。
ジム・ロジャーズの予言的言辞を急に思い出した。「中国の時代が来る」(それは予測通りだった)。「だが中国の時代は始まると同時に終わるかも知れない」(これも、その通りになりつつありますね)。
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(読者の声) 政府・財務省はなにがなんでも増税をしたいようですが、とあるブログで面白い記事を見つけました。「今年度(2011年)は30兆までは日銀に国債を直接引き受けさせることができる」
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/7970625f5de51e042580faf2d2b2efe2
世界一やさしい「増税なしの」復興財源捻出方法 ―― 18兆円の「日銀埋蔵金」とは何か? 高橋洋一 10月11日。元記事:
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111011-00000301-synodos-soc
高橋洋一氏といえば元財務官僚、かつては竹中平蔵のブレーン、政府紙幣についての発言も多いですね。2009年に温泉施設での窃盗容疑で書類送検(逮捕はされていない)、なにか嵌められたとしか思えない事件でしたが真相はどうだったのでしょう。
それはともかく、上記の記事を要約すると、
・財務省と日銀の関係は主従(財務省が主:日銀が従)関係であり
・日銀は財務省の指示通りに国債の直接引き受けをしている
・日銀はそれがコンプレックスで国債の直接引き受けはできないと主張している(実際は法律上できるし毎年行っている)
・2011年の国債引受枠30兆円のうち12兆円しか引き受けていない
・今年度の国債償還額(30兆円)分の国債を日銀が買い入れないと自動的に金融引き締めになる
インタビューで高橋氏はこう言っています。『それで今年度(2011年)は30兆までは日銀に国債を直接引き受けさせることができるんだけど、今年は日銀の直接引き受けは12兆になってしまっている。わたしはそこを指摘して「まだ18兆円も普通に(予算に則った)日銀に国債を直接引き受けさせる枠があるのだから、日銀に国債を引き受けさせればいいじゃない」と言っているわけ。「今の範囲で、合法的かつ予算の範囲でできるじゃない」と。
日銀の直接引き受けは全然根拠のない話じゃなくて、今の予算の範囲で――少なくとも30兆って枠はこの前の3月に成立した予算でとっているんだから、まだ余っている18円分を引き受けさせればいいじゃないって言っているだけなんだから。
こういう風な話をすると、日銀がいかに財務省に虐げられてたかっていう言い方もできるかもしれないけども、わたしは「30兆円の国債の償還が今年あって、それを増やさなかったら必要なマネーが減って、デフレになって大変でしょ」って言ってるだけ。わたしがもし財務省の担当だったら確実にやる。復興のために増税するなんてことを言うんじゃなくて、震災復興債を出して、日銀が直接引き受ければそれでいいだろうって。それで一気に復興をすればいいだけなんだから』 増税一直線の財務省から疎んじられるのもわかります。
小泉・竹中の「構造改革路線」の時には胡散臭くも思えた高橋氏ですが、これだけデフレが長引く現在、増税に反対する氏の論は当然過ぎるほど。
民間の資金需要がない中、通貨供給量を維持・拡大するには日銀が国債を引き受けるのは当然でしょう。アメリカではFRBが10月11日に25億ドルの国債を買い入れています。
日銀が主張する「日銀券ルール」についての批判もあります。若田部昌澄(早稲田大学教授)氏による記事(「日銀券ルール」の誤謬)
http://voiceplus-php.jp/archive/detail.jsp?id=142
(引用始め)「(2009年3月)18日の記者会見で白川方明日銀総裁は、買い取り額は「かなり限界に近い」と述べ、さらにこのルールを見直すつもりはないと答えている。しかし、このルールは2001年3月の量的緩和導入時に日銀が勝手に定めたものであり、何ら経済学的な根拠はない。日銀はこのルールになぜ固執するのだろうか。再び総裁によると、このルールを超えると「財政ファイナンス」につながるからだ、という。要するに、長期国債をあまり保有すると財政を金融が支えるかたちになることを懸念しているということだ。
しかし、前回の本コラムでも述べたように、現在必要なのはまさに財政と金融が一体となった政策発動である。日銀はあまりに危機意識が欠けていないだろうか。
とはいえ、そうなると戦前に起きた「日銀の国債引き受け」になり、戦前から戦中にかけてのような悪性の高インフレにつながるのではないか、という懸念があるかもしれない。これは日銀だけでなく国民の多くにも共有されている通念であろう。
だが、この通念は修正が必要であり、歴史をきちんと学ぶ必要がある。日銀の国債引き受けを実行したのは、昭和恐慌からの脱出の立役者、高橋是清蔵相のときである。実行されたのは1932年11月。前年12月、蔵相就任と同時に金本位制を停止した高橋は、32年3月に日銀の直接引き受けを宣言する。それと同時に日本経済は急激な回復を開始する。
その経済成果は見事としかいいようがない。実質経済成長率は約7%に対し、物価上昇率はわずか2%である。日本はすでに1930年代に、後年の高度成長を実現していたのである。しかしその後インフレを懸念した高橋は財政支出縮小に乗り出し、軍事費縮小を嫌った軍部によって不幸にして暗殺される」(引用終わり)
財政破綻論者?の池田信夫が批判していますから「日銀の国債引き受け」は正しいのでしょう。東北、宮城県の仙台ではミニバブルといってもいいほど高額商品が売れているといいます。震災への一時金、がれき撤去、道路や住宅の建設・補修などの公的支出に加え、「あの世にお金は持っていけない」と悟った節約疲れの人たちが残りの人生を楽しむためにお金を使い出しているのだとか。イギリスでは臨終の際、遺産を残さず、お金がちょうどなくなるのがいい人生といわれる、と何かの本で読んだことがあります。
日本でも高齢者がもっとお金を使えば景気はよくなるのに、政府・マスコミが不安を煽ってばかりいるから消費がさらに萎縮する。日本に「夢」を語れる政治家はいないのでしょうか。(PB生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)宮城を取材してきた産経新聞の田村秀男さんから直接聞いたのですが、仙台は夜のネオン街も満員、瓦礫処理のあぶく銭で業者が街へ繰り出し、風俗街も繁盛しているそうです。ブランド品が売れるのも、おそらく地元ではなく外人部隊では?
杜父魚文庫

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