8514 自民党外交部会の公開性と民主党の政策決定の不透明さと 阿比留瑠比

昨日は自民党の外交部会・外交・経済連携調査会・領土に関する特命委員会が開かれました。これについては、今朝の産経政治面に坂井広志記者が書いた「民主の対韓融和非難 自民『儀軌引き渡し反対』」という記事が載っているので参考にしてほしいのですが、記事に出ている部分以外でもいくつか興味深いところがあったので報告します。
まず、民主党の前原誠司政調会長が11日に韓国で、アジア女性基金を参考にした韓国の元慰安婦への新たな人道支援基金の構想を表明したことについてです。前原氏は割と事前調整も根回しもせずに思いついたことを口にする方なので、たぶん、そんなところだろうと思っていましたが、外務省の石兼公博アジア大洋州局審議官は、自民党議員らの質問にこう明言しました。
石兼氏「現時点で検討していることではない。いま新しいものをつくることを考えていることはない。前原さんから相談を受けたこともない」
とりあえず、野田政権として正式に検討していることではないことが確認できました。だとしたら、前原氏の発言は日韓間にいたずらに悶着の種をまいただけの無意味な二元外交の典型といえましょうか。
それと、実に興味深かったのが、韓国の憲法裁判所が8月、慰安婦問題をめぐる賠償請求権について「韓国政府が具体的な措置を取ってこなかったのは違憲」とする判断を示したという問題に関しのやりとりでした。以下、私がメモにとった範囲なので言葉は必ずしも正確でない部分がありますが、大意は合っているはずなので紹介します。まず、石破茂前政調会長がこう尋ねました。
石破氏「韓国の憲法裁判所で、個人請求権に基づいて韓国政府が日本に賠償を請求しないことは憲法違反だと判断したとされる。これによって、韓国政府はどういう立場に立つのか?」
石兼氏「韓国の憲法裁判所の件は、慰安婦と原爆被害者が原告となり、韓国の外交通商部を相手取り起こしたもので、韓国政府に日韓請求権の解釈の違いについて協議しろという決定です」
…もちろん、日韓間の請求権問題に関しては、14年間にもわたる難航を極めた交渉の末、昭和40年に締結された日韓基本条約とそれに伴う協定で「完全かつ最終的に解決」されています。ところが近年、韓国側はそれに含まれていない問題もあると言いだしているわけです。その点について石兼氏はこう説明していました。
石兼氏「請求権に関する韓国政府の立場は必ずしもはっきりしない。以前は解決済みというスタンスだったが、2005年あたりから『解決していない』という立場をとっている」
そして、韓国の憲法裁判所の判決についてさらにこう説明しました。
石兼氏「韓国の憲法裁判所は『日韓で協議をしろ』と言っている。協議していない状態が慰安婦らの基本権を犯しているということだ」
ここで、高村正彦元外相が面白い指摘を行いました。韓国政府は11日に国連の女性の地位向上について協議する第3委員会の場で、慰安婦問題を含む戦時性暴力に関するステートメントを出しています。その際、日本政府は「慰安婦問題についての請求権は協定で解決済み」と主張しました。これを踏まえ、高村氏はこう質問したのです。
高村氏「向こう(韓国)が向こうの主張を言って、こっちは『解決済み』と言ったのだから、これは協議でしょ」
これに対し、石兼氏は「先方はそうは受け取らないと思います」と答えたのですが、高村氏はさらにこう述べました。
高村氏「日韓双方が主張したのだから、協議でしょ」石兼氏が「うーん」と言葉に詰まったところで。石破氏がこう引き取りました。
石破氏「(日本は解決済みだと言い、韓国は憲法判断に基づき協議しなければならないのだから)これは未来永劫続くんでしょう。(韓国政府としては)止めちゃったらダメなんでしょ」
結局、韓国憲法裁判所の判決の正確な位置づけと、それに対する韓国政府の法的立場、何をもって日韓協議とするかなどについて、外務省として改めて自民党外交部会に提示することになりました。
自民党の場合、こういう政策決定や意見集約の課程が民主党に比べはるかにオープンなのでわかりやすいですね。政策の党部会による「事前承認制」については、族議員の介入や政策決定の遅延を理由に否定的に見る議員もいますが、私はこの公開制は捨てがいと思います。特に、民主党の場合はかなりの部分、政策決定がブラックボックスの中で行われるか、トップの「思いつき」で方向付けられてしまうので、それに比較するとよいように思えます。
昨日、自衛隊のPKO派遣がほぼ決まりつつある南スーダンに何度か行ったというジャーナリストの話を聞く機会がありましたが、現場はやはりとんでもなく危険なようです。
こういうとき、自民党政権であれば、国防部会などで武器使用緩和問題や派遣条件などが侃々諤々の議論を呼び、それがまたオープンにされているので記事になりやすく、けっこう国民的議論を呼んだものですが、民主党政権ではほとんど話題にならないまま決まっていく怖さがあります。
また、首相がぶらさがり取材を受けないので、こういう重要な問題について首相がどう考えているかを質す機会もありません。民主党政権が今後も続くのであれば、この非公開・情報隠蔽体質は何とかしてほしいし、そうでなければ非常に危険だと考えています。
杜父魚文庫

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