8524 中国のハニートラップとは 古森義久

私が大いに楽しんだスパイ小説の紹介です。「警視庁情報官 ハニートラップ」(濱嘉之著 講談社文庫)です。この本の最大の特徴は内容が迫真、きわめて現実的であることです。こんな作家が日本にいること、率直にいって、これまで知りませんでした。
まずは本書の帯の宣伝文句から、です。「国家機密が漏洩! 影に中国美女の色仕掛けあり」カバーにはさらに以下の記述があります。
「色仕掛けによる諜報活動――『ハニートラップ』に溺れた日本の要人は数知れず。国防を揺るがす国家機密の流出疑惑を追う警視庁情報室トップの黒田は、漏洩ルートを探るうちに、この罠の存在に気が付いたが・・・・・
『情報は命』そう訴える公安出身の著者が放つ、日本の危機管理の甘さを衝いた警察小説の最前線」
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この種の日本の小説ではスパイをする当事国の名前もA国、B国、日本側官庁の名もC省 D庁などと現実の認識を避けることがほとんどです。警察署の名前さえも、新宿署のかわりに西新宿署などという仮称を用いることが普通です。
ところがこの小説ではスパイをする国ははっきりと中国と明記し、中国大使館もそのままの名称で重要な役割を演じています。日本側の外務省、防衛庁、海上自衛隊などなど、みな現実に沿っています。
そしてなによりも迫真なのは警察の実際の活動です。公安や警備の警察官たちがどのような組織、機構で、どのような活動をしているのか、きわめて具体的に描かれています。
この特徴は著者が実際に警視庁で警視まで務めた実績があるからでしょう。著者の濱嘉之氏は警視庁の警備部、公安部で長年、勤務し、内閣情報調査室にまで出向した現職警察官だったそうです。この20数年の主として公安畑の勤務体験が小説のなかにもふんだんに活用されているのです。
そして著者はスパイを取り締まる法律さえ存在しない日本の国家の構造欠陥を鋭く指摘しています。こんな現状では日本という国家は崩れていくのではないか、というきわめて説得力のある悲憤慷慨です。
杜父魚文庫

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