世俗イスラム政党が辛勝か。大混乱、政党乱立、外国からの献金スキャンダルに揺れながら。チュニジアでは10月23日に制憲議会(定数217)選挙の投票が行われ、各地に長い行列ができた。
「チュニジアの平和革命を象徴する今回の選挙は、偶像のいらない、イデオロギー対立のない、民主主義体制を実現できるか、どうかを世界にしめす機会だ」とリベラル政党PDP創設者で、海外の亡命先から帰国したマルセル・マルゾウキは言った。
奇妙なことに、この反政府の象徴だった政党には旧政権の利権にむらがってビジネスエリートから献金が目立つという。彼らは欧米的自由人権の価値観を訴えているため、イスラム社会であるチュニジアにどこまで浸透するか、疑問符も残る。
ともかく「アラブの春」などと呼称された民衆の暴動で独裁者ベン・アリ前大統領一家がサウジアラビアへ逃げ出し、政権が倒れてから初めて行われた「民主選挙」は、なんと百を超すインスタント政党が乱立し、有名なサッカー選手を擁立した政党あり、リビアの石油開発で儲けてきた成金政党あり、収拾がつかない混乱をみせた。
選挙終盤にはいり、合法とされた政党は81。合計11000名という壮大な候補者をおしたてて、お祭り騒ぎの様相となった。
ところが選挙は米国方式が取り入れたので、予め登録しなければ選挙権はない。「結局、310万人もの有権者が登録をせず、選挙権を行使できなかった」(アルジャジーラ、10月24日)ことも分かった。
有力政党は四つ。イスラム穏健派政党「アンナハダ」、世俗派「民主進歩党(PDP)」、中道左派政党「エッタカトール」。そして前政権のビジネスエリートがカネにあかせてつくった「自由愛国者連合(UPL)」。このうちベン・アリ前政権の独裁下では「アンナハダ」は非合法政党、指導者は海外へ亡命していた。PDPなどは弱小野党だった。
アンナハダは、リビア暫定政府が妻帯は四人までと事実上のイスラム慣習を適用させた声明で、とてつもなく民主化と遠い姿勢をはやくも露呈したようなイスラムの宗教原理主義は後方へおしやり、表面では謳っていない。
世俗主義のアンナハダは複数政党制を認め、個人の権利と少数民族の尊重を謳い、トルコをモデルにすると公言している。
しかし選挙キャンペーンでは民衆にこの主張はなかなか容易には受け入れられず、党首のラチッド・アル・ガンオウーチは方々で「神の祝福がある。投票所でアンナハダの候補に入れればアラーは貴方に加護を与えるだろう」と単純な呼びかけを続けた。
NYタイムズ特派員の現地報告に拠れば、このアンナハダには湾岸諸国から大量の軍資金が流れ込んでおり、政党宣伝パンフなどは七カ国語、あふれるような選挙資金は外国から来ているという噂が広がったと特記した。
政治主張や綱領をならべての政治宣伝冊子に、七カ国語もの翻訳パンフレットがあるのは、チュニジア人の海外居住者にも選挙権があるからだ。
ドイツ7票、フランス五票、数票はアラブ諸国に散らばる。25日のアルジャジーラ速報では、すでに海外ではアンナハダが他政党を2倍以上も引き離して圧勝していると伝えた。
チュニスに本部をおく暫定的選挙管理委員会は泥縄式に外国からの献金を禁止したが、選管メンバーの多くが海外で教育を受けたリベラル派が多く(とくに各国の選挙管理に毎回、しゃしゃり出てくるNGOの「カーター・センター」とか)、彼らがアンナハダを敵視していることも原因の一つだろう。
諸政党はともに女性の教育を受ける権利、女性の権利拡大などを訴えることでは共通だった。なお「制憲議会」は新憲法制定や暫定大統領選任などを担うため、きわめて重要な選挙である。
杜父魚文庫
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