グァイダル港は中国海軍、カシミールには人民解放軍に加えて・・・。
中国は本気である。尖閣諸島、沖縄への侵略の話ではない。ブルネイ、フィリピン、ベトナム、マレーシアには「(領土問題でがたがた抜かすと)号音を聞くことになるぞ」と白昼堂々の脅迫言辞を吐いたが。
パキスタンの領土内に中国軍が陣地を構築するというのだ。
もとより中国とパキスタンは半世紀を超える軍事同盟。両国合弁の戦車工場、機関銃工場はパキスタン国内に存在する。筆者も戦車工場を「目撃」したことがあるが、写真を撮れなかった。
中国はパキスタン領内に軍事基地を設営する野心に燃えている。いや、すでにパキスタンに二ケ所、中国軍は駐留している。
第一の基地は西南ワリジスタン地方のグァイダル港だ。
グァイダル港はアラビア海に面する深海、中国が港湾設備の拡充と軍事用の波頭を建設したが、将来は空母帰港も可能な設計という。潜水艦も寄港出来る規模で、港の管理運営を請け負ったシンガポール企業とは契約切れ、中国の管理に入る。
地政学的にはペルシャ湾を扼する枢要な要衝であり、パキスタンが積極的に中国海軍に、この港を使用させる目的はインド海軍への牽制である。
第二はカシミール地区である。
すでにインドの軍事情報筋は、ここに四千人の人民解放軍が駐留しているとして中国に抗議しているが、中国側は「あそこはチベットに隣接する地域であり、いやチベットの領土であり(つまり中国領土であると主張)、駐留しているのは建設労働者だ」と反論している。昔、ラダック地区と呼ばれた一帯で、標高5000メートル級の峻険な山岳地帯に中国はハイウエィを建設した。
中国がパキスタンと秘かに交渉をつづけている軍事基地は以上ふたつの既成基地とはまったく「別もの」である。
中国陸軍がパキスタン領内に軍事基地を開設しようというのだ。
▲口実はテロリストの出撃があるからト
中国が神経を尖らせるのは新彊ウィグル自治区の独立をめざす「テロリスト」の出撃基地がパキスタンの無法地帯に広がっており、ここで訓練されたアルカィーダ傘下の東トルキスタン独立運動過激派がしばしば新彊ウィグル自治区へ“越境”して「テロ」を繰り返すため、その防御目的に軍事拠点が必要という論理である。
もとより主権国家に他国の軍隊が駐留するというのは占領と軍事条約もしくは安全保障協定いがいあり得ないことである。
日本に外国の軍隊がいるのは国際常識に照らせば異常事態である。しかし日米安保条約という外交条約の掟に従って米軍がアジア安定の要石という名目で居座っている。
イスラエルやキプロスなどの紛争地域に駐留する軍隊は、たとえ実質が米軍であろうとも「国連軍」の名前、目的は平和維持である。
キルギスに駐屯する米軍は「アフガニスタン戦争」の中継兵站基地としての借用であり、契約更新のたびにキルギス政府は米国に賃上げを要求している。同時に同国にはロシア軍が駐屯しているが、これはCIS軍事条約による。
ウズベキスタンはアフガニスタン戦争の途中から米軍駐留を断った。イラクにまだいる米軍は「多国籍軍」、アフガニスタンもそうだ。
しかしながら例外は、中国の頭越しにパキスタンの四カ所の空軍基地を米軍が借用しているが、これはムシャラフ前政権下で交わした交際契約である。米軍のアフガニスタン攻撃の最大の兵站基地である。そのうえ、アフガニスタンのタリバン、アルカィーダ撲滅作戦のため。パキスタン領内にはCIAのドローン出撃基地もあるが、場所や規模などの詳細は不明である。
さてパキスタン国内には政府が統治していない地域が夥しく存在し、アルカィーダの首魁ビン・ラディンが堂々と豪邸にくらしていたように、密輸業者、テロリスト、武器商人、麻薬マフィアらが闇の領域を広げている。
アルカィーダ残党とタリバンと連携する東トルキスタン独立運動の過激派が、こうしたパキスタン領内の無法地域にひそかに軍事訓練基地を設け、しばしば新彊ウィグル自治区へ出撃する。
げんに9月28日にイスラマバードを訪問した中国公安部長(諜報の元締め)の孟建柱に抗議するため、二回の爆弾テロを敢行して「歓迎」した。
カシュガルと新彊の都市部で自爆テロが連続し、18名が死亡した。
「パキスタンの無法地帯は過激派のヘブン」とされ、パキスタン軍部は戦略上、かれらの一部と通じて勢力を温存させている。
▲パキスタン、インド、中国みつどもえの領土係争地帯
むろん、パキスタンは中国軍の駐留を主権国家として認めるわけにはいかないため、口実としての安全保障条約を締結する必要があり、指導層がつぎつぎと北京を訪問する。過去数ヶ月だけでもハル外相、ザルダリ大統領、ギラニ首相、パシャ内務長官(准将)らが足繁く訪中し、秘密協定の中身を詰めたといわれる(アジアタイムズ、10月26日)。表向きの理由は「テロ防止協力関係の強化」である。
中国の苛立ちは続く。新彊ウィグル自治区はウィグル人の土地である。
1951年にここを侵略した中国は、生産大隊およそ百万を駐屯させる一方で、砂漠が多いとはいえフランスの三倍もの面積を誇るウィグル自治区を活用するため過去には原水爆実験場とした。
近年は天山山脈の水資源、砂漠から沸き出でた原油とガスを収奪するために重要な戦略拠点化し、「東トルキスタン」として独立を目ざすウィグル人過激派の弾圧と封じ込めに躍起である。
ウィグル過激派はアフガニスタンに多くいたが、米軍の介入以後、とくに指導者が米軍ドローン(無人攻撃機)の標的となって死亡が相次いだため、アフガニスタン国境からパキスタンの無法地帯へ移住した。
FATA(パキスタン領内の部族自治区。パキスタン政府の統治が及ばない)地区は、以前にギルギット&バルジスタン地区と呼ばれた。アフガン回廊に隣接し、インドが領土を主張し、紛争が絶えない地区である。
この宿命的な三つどもえの紛争地帯、中国はこの地域のパキスタン側に軍事基地をまもなく建設する。
杜父魚文庫
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