■書評・岡潔『日本民族の危機』(日新報道)
名著の復刊である。戦後教育の悲惨さが、戦後日本をここまで堕落させ、存亡の危機に立たせた。すっから菅とか宇宙人とかドジョウとか、冗談を言っている場合ではもはやあるまい。
いま、どうやって日本を救うのか、様々な論説が保守論壇で行き交うが、すでに半世紀も前に天才数学者の岡潔先生が予言していた。日本を救うのは「情」の哲学である、と。
岡さんは言う。「真我が自分だということに目覚めるには、どうすれば一番早いか(中略)日本民族は心の民族で、その中核の人たちは、自分が心であるということをはじめから知っていた」「日本民族はアマノミナカヌシノミコト(天御中主命)から数えると、三十万年にはなると思う」「だから日本民族は、私は、他の星から来たのだろうと思います」
ところが戦後教育で、日本は米国から、我が国の文化、歴史、伝統と絶縁するようなアメリカ人デューイの勧告を入れ、じつに奇妙な、欲望を抑える必要がないという教育を施して、つまりは日本の心がすさみきった。
売春を「仕事」としてビジネス化する若い女性の心理は日本人の伝統的思考にはなかったのではないか。同棲も婚前交渉もタブーでなくなった果てに、いまや女が男を漁り、男はイクメンとかの主夫業。道徳的退廃から道徳の壊滅状況に陥った。
あまりにも享楽的で刹那的で、生命尊重だけが価値観の中軸にあるくには道徳的に衰退するしか道は残されていない。
評者(宮崎)は生前の岡潔さんと親しくさせていただいた。四十数年前のことだが、奈良のご自宅へふらりと尋ねたときも初対面の学生に数時間「講演」をされ、夕食までご馳走になった。
「昨夜、西行法師にお目にかかりましてね」というところから氏は突如、話し始めた。わたしは挨拶だけのつもりだったのに、慌てて手帳を出して夢中になって記録した。当時、編集長だった「日本学生新聞」に掲載した。
岡潔さんは一応の結論がでるまで話をやめなかった。
ある時は新幹線のホームに座り込んだので、つられて私も座り込むと周りに十重二十重の見物客ができた。岡さんは思考しているとき、周囲を構わない。知の豪傑である。
何回も学生集会に講演にきてもらった。その講演は多くの人々を感動させて、氏の著作の多くは当時、ひろく人口に膾炙された。本書はなつかしくもあるが、日本民族論の本質を簡潔明瞭にえがいた名著である。
杜父魚文庫
コメント