8590 アメリカでの共産主義はいま 古森義久

■米経済病んでも「反共」不変
ソ連共産党の崩壊から20年、米国ではいま共産主義をどのように受けとめているのか。
共産主義とはよく対極に位置づけられる資本主義のシステムが、このところ米国では大きなひずみやきしみを示すようになった。資本主義とその発露である自 由市場経済の欠陥が指摘されることが多くなった。最近のウォール街でのデモに象徴される経済の現況への抗議活動もその延長だといえよう。不況、失業、貧富 の差など「資本主義の過剰症状」への抗議である。
だからその反動で、かつては完全に否定された共産主義が墓場からよみがえる兆しがあるのかといえば、答えは疑問の余地なしのノーである。だが、共産主義の代役の意義を体するように社会主義という言葉がこのところ米国では頻繁に登場するようになった。
◆社会主義的な政策
大手ニュース週刊誌のニューズウィークが「われわれはいまやみな社会主義者だ」という特集を巻頭記事で組んだのは、オバマ政権の誕生後間もない2009 年2月だった。この記事は、オバマ政権が景気対策として1兆ドル近くの政府資金を一般経済に投入する政策などの特徴を「社会主義」と評したわけである。
オバマ大統領は以後、社会主義者のレッテルを貼られることも多くなった。破綻した民間大企業を政府資金で救済する。医療保険も政府運営の部分を多くす る。大企業の幹部の給料の上限を仕切る。高所得層への課税を強め、富の再配分を図る。いずれも国家が生産手段を所有し、管理し、マクロ経済も計画を適用す る-といった社会主義の特徴が目立つというわけだ。
だが社会主義という言葉自体、米国民多数派にはきわめて負の響きが強い。オバマ政権も自分たちを社会主義者と決めつけることには断固、抗議し否定する。
その背景には、自らを社会主義や共産主義とは正反対の立場に立つ保守主義者だと認める米国人たちが一連の世論調査で40%前後を占めるという実態が存在 する。ちなみに自らをリベラル派だとみなす人は20%前後であり、まして自分を公然と社会主義者だと認める人は統計上、ゼロに近い。
米国民のこうした態度は、対象が社会主義の一種だともいえる共産主義となると、さらに反発が激しくなる。米国で社会主義といえば、まず複数政党や議会制 の政治形態をともなう西欧型の社会民主主義を指すが、共産主義は一党独裁、個人の抑圧、市場経済活動の禁止などマルクス主義としてまた別扱いである。
だから現実の米国政治で最も左に位置する超リベラル派でも、「共産主義は現実の統治では経済的な失態だけでなく、人間の本質も否定する結果を示した」(政治評論家マイケル・キングズレー氏)と突き放す。
◆中国の「独裁」非難
米国議会も中国に対し経済面や対テロ闘争などでの連帯の重要性を認めながらも、中国共産党の民主主義否定の独裁統治には超党派の非難を浴びせ続ける。米国が米国である限り共産主義支配は許容できないとする、冷戦時代にも一貫して保った姿勢だといえよう。
しかし米国の一部にはソ連のような現実の共産主義体制があったからこそ、アンチテーゼたる資本主義も身を正すことができたという論調もある。
保守派の政治評論コラムニストのアルノー・デボルグラフ氏は3月、「米国などの資本主義世界は共産主義や社会主義の挑戦に(冷戦中の)40年間も直面し ていたために、経済活動での倫理を保ち、自由奔放の過剰を自粛する効果があった。が、いまやその抑制が消えて、腐敗が広がった」という趣旨の論文を発表し た。かといって共産主義の長所を認めたわけでは決してない点が、反共国家の米国の素顔を改めて示したといえよう。(ワシントン 古森義久)
杜父魚文庫

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