8593 湖州暴動は「人頭税」ならぬ「ミシン税」という暴挙へ民衆の怒り爆発 宮崎正弘

ネット情報と写真を当局はつぎつぎと削除しても、争乱は収まらない。10月26日から浙江省湖州での争乱は四日目に入った。
騒擾の原因は児童服装の輸出基地である紡績業者に税務当局が「ミシン税」をかけて、あくどく搾り取ろうとしたこと。人民元高で輸出が伸び悩む状況下、輸出業者支援ならともかく増税措置は「おまえら、つぶれろ」と中小零細企業に傲慢に言っているようなものである。
さて湖州のロケーションは杭州の北側。ここは杭州経済圏、もっと拡大して言うと上海メガロポリス圏にはいる。湖州の名前のとおり、湖と運河に恵まれ、流通に適し、産業はふるくから発展した町である。
昨日まで好景気に沸いたところで、西となりの安徽省からの出稼ぎが多い。広州(広東省)の労働者は湖南省、広西省チワン族自治区からが多いように、地理的条件から上海方面は安徽省、江西省からの出稼ぎが目立つ。かれらは戸籍、社会保険その他で差別されており、不満は蓄積されてきた。
すでに前号までに報じたように上海では不動産価格の大幅な下落がはじまった。タクシーは初乗りが14元に値上げされたのでガラガラだった。先週、杭州でも二泊したが、好況と不況が交錯してバランスを失いかけていた。杭州市内のマンション価格は上海とならび、庶民は手が出ない。
▲杭州の不動産価格も高騰の限界だった
杭州南の新開地は地下鉄でつなぐ工事をしているが、ITのメッカとなった工業団地は「アリババ」本社などがあって、活気が残っていたものの、反対側の豪華マンション群は住んでいる人が殆どいない。
蛇足だが、杭州市の人口は870万。不法移民(戸籍のない出稼ぎ)が200万、すでに1000万人をこえる大都市である。
新開地にたちならぶ豪華マンション群は幽霊屋敷。
ここに投資していたのは温州の投棄グループであることは歴然としており、地元のひとに聞くと「あの人たちは住む気持ちなどないんです。ひたすら値上げを待っているだけ。地元経済にとっても長い目では迷惑」と言う。
ついでに上海のことに触れると下町の開発が遅れて、古い家屋が残る地区(たとえば豫園周辺)には嘗ての「長屋」風の古い民家がかなり残る。
この下町めがけて戸籍を移す動きが加速している。狭い住居に三世帯の同居があったり(戸籍上)、首をかしげる現象だが、「開発」による立ち退きへの条件闘争という。
 
つまり所帯人数が多ければ、いずれ開発で立ち退きとなれば、広いマンションに移れるという思惑で、つぎつぎと違法な戸籍移転。反対に当局は「下町開発」を遅延させるという対抗措置にでていた。
    
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  読者の声 どくしゃのこえ 読者之声
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(読者の声)タイの洪水被害、いよいよバンコク市内まで広がってきました。タイに限らず東南アジアの河川は堤防などほとんどないに等しく、バンコクでも行き止まりの道路の先が船着場というのはよくあります。
第二次大戦前のバンコクの写真では中華街に近いファランポーン駅(国鉄中央駅)前の道路が冠水していたり、今の伊勢丹がある大通りが冠水しているものもありました。
現在の幹線道路は昔の運河を埋め立てたものが多いですが、排水設備はまったく不十分。少し激しい雨が降るとわき道はたちまち30センチほど水に浸かってしまい水が引くのに一晩かかる。
バンコクの知事選挙でも排水の悪い地区の対策がいつも争点になっていましたが、問題を先送りにしているうちに本当に洪水になってしまいました。
低湿地だったアユタヤの水田を潰して工業団地を造成したことに加え、タイ北部の森林の過剰伐採で保水力が失われたことも洪水の原因の一つでしょう。
タイ北部において過去60年間で最大の雨量によりダムの貯水量をオーバーしたため放水、下流域での洪水という流れですが、河川の途中に大規模な遊水池でもあれば防げた災害かもしれません。
高校時代の古文の教師が東京の下町育ち、昭和20年代には台風で荒川が氾濫、洪水になったといっていました。首都圏では現在、荒川遊水池・渡良瀬遊水池などが整備されています。
JR武蔵野線から荒川遊水池を見ることができますが、まさに平地のダム、通常時は市民の憩いの場として親水公園の役割を果たしています。
タイの隣国、カンボジアではメコン川の支流につながるトンレサップ湖が自然の遊水池の役割を果たしてきました。
ポルポト時代に無茶苦茶な森林伐採を行い保水力の低下が懸念されていましたが、今年は8月以降、洪水で250人が死亡、150万人以上が被災という惨状。ミャンマーでも洪水被害が出ています。
http://www.asahi.com/international/update/1023/TKY201110230303.html
タイの河川を飛行機から見ると蛇行しまくりで、子供のころ習った三日月湖(日本では石狩川が有名)や古い河道がいたるところで見られます。
バンコク近郊では水田や住宅地まで古い河道が識別できますから、それほど昔の氾濫ではないようにも思えます。エジプトのナイルの洪水というのも今回のタイの洪水のようなものだったのでしょう。
さてタイ進出の日系企業6000社以上、今回の洪水の被災が現時点で450社と言われています。
マーク・トウェインだったかアンドリュー・カーネギーだったか、「卵は一つの籠に入れ、その籠を見守れ」という格言があります。企業経営での選択と集中という意味ではサムスン電子などまさにこの格言どおり。しかし製造業においてはリスクヘッジできない危険性の方が大きいことが東日本大震災と今回のタイの洪水で明らかになりました。
トヨタなど1980年代にカローラからクラウンまでドアハンドルを共通化して合理化自慢をしていましたが、今回の洪水では東南アジアの工場はもとより北米の工場まで生産調整に追い込まれています。樋泉教授が「卵は一つの籠に盛るな」と指摘されておりましたが、まさにその通りの結果になってしまいました。(B生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)日本企業のリスクヘッジの問題、これは国家安全保障の感覚のない日本の政治を反映しています。
もう一つ、重要なポイントは上流域に中国が勝手にダムを建設していることです。水資源を勝手にコントロールされれば、下流域諸国(ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、バングラデシュ)は、まさしく中国の支配下にはいると同義語です。
ご指摘のカンボジアの湖、小生もアンコールワット、アンコールトム見学のおりに、行きました。そうですか、あれは遊水池の役割。小生はアンドレ・マルローの追体験に集中していたので、そのことを考えませんでした。
またバングラデシュは国土の南半分が湿地帯ですから、洪水は日常茶飯ですが、バンコックもいずれ、ああなるのでしょうか。
杜父魚文庫

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