さようならオッペンハイマー家よ、デビアスが51億ドルで全株取得。これから中国、インドとダイアモンド業界は過酷な競争時代に突入する。
いくたの「事件」の陰に隠れたが、異変はダイアモンド業界にも起きた。
デビアス社はこれまでダイアモンド市場を独占してきた。ロンドンで行われる値決めは、一方的な宣告に近く、なにしろ供給を取り仕切っているのだからバイヤーは、デビアスの値決めに従わざるを得ない。
このデビアス社は株式の過半を持つオッペンハイマー家が牛耳る。
70年代、デビアス社にとって唯一のライバルはロシア(ソ連)だった。ソ連産出のダイアモンドは、しかしながら工業用であり、「給料の三ヶ月」などと宣伝をかけた結婚指輪や宝飾業界にとって、ソ連は敵ではなかった。
80年代の競争は、研磨業界の異変で、ダイアモンドのデザインが勝負となって、NYカットがオランダの研磨デザインを凌駕するようになり、またイスラエルの研磨業界の市場に伸してきた。供給の独占はデビアスだった。
80年代後半から90年代に異変の徴候はアフリカ諸国でおきた。内乱、クーデター、民族紛争の直接原因は乏しい産業利権の取り合い、ここに反政府軍が鉱山を占拠したり、鉱脈がゲリラの拠点化したりした。
背後に反デビアス勢力が暗躍し、中央アフリカ、リベリアあたりで大量にダイアモンド原石が採掘されるようになると、デビアスの独占的なシンジケートを通さないで、世界市場に流れた。
研磨と流通をにぎるデビアス・シンジケートは、これらアフリカ産出ダイアモンドを業界から排除したが、徐々に市場は蚕食され、現在のデビアスの独占度は85%に減った。工業用ダイアモンドは、ハイテク自動車、原子炉、宇宙衛星など戦略的資源であり、宝飾業界だけの狭い話ではない。安全保障にも繋がるのである。
将来の市場の激変を見越すかのようにデビアス社は操業者一族オッペンハイマー一家の「退場」を促し、全株を51億ドルで取得した(ウォールストリートジャーナル、11月7日)。これにより何が変わるのだろうか?
杜父魚文庫
8625 ダイアモンド業界は過酷な競争時代に突入 宮崎正弘

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