マスコミ界のドンともいわれ、鬼才・いしいひさいち氏の漫画の登場人物等のモデルともなったMr.ナベツネが話題になっているのを見て、以前聞いたささやかなエピソードを思い出したので、ちょっと紹介してみます。
あれは何年前だったか、永田町でこのナベツネ氏と故瀬島龍三・伊藤忠商事元会長(元大本営陸軍部作戦参謀)がケンカしているとの噂が流れたことがありました。二人とも、中曽根康弘元首相に近く、ブレーンとも言われる存在だっただけに、私のようなチンピラ政治記者も少々、興味を引かれたのでした。
そこで、当時、キャピトル東急ホテルの一室にあった瀬島氏の事務所を訪ね、「最近、渡辺さんとけんかしているとの話が聞こえきますが?」と単刀直入に聞いてみたところ、瀬島氏はけんか自体は否定したものの、「うーん、あれはいかん」と語り始めました。
そのしばらく前、ある料亭で瀬島氏がMr.ナベツネ氏と同席していたことは分かっていました。おそらくそのときのことだと思いますが、瀬島氏は私にこんなことを語ったのでした。
「渡辺さんはなあ…。乾杯してビールをグラスで飲んでいるうちはいいんだが、途中からコップ酒になってくると…。ああなるともう…あれはいかん!」
瀬島氏はそれ以上具体的なことは話そうとしませんでしたが、たばこをふかす姿が心なしか不快そうで、酒の席で何かあったのだろうと推察しました。瀬島氏の方がMr.ナベツネよりずっと年上なわけですが、そういうことをそれほど気にする人でもないでしょうし。
ただそれだけのお話ですが、読売新聞の記者も大変だろうなあと、弊紙より給与・待遇・福利厚生その他はるかに立派な会社の社員にほんの少し同情を覚えたのでした。
また、それから数年後には、ある政治家のパーティーで、60歳をとうに過ぎた読売の役員クラス(それも上の方)のお偉いさんがあいさつで、「でもうちの社内では上がつかえていて小僧扱いですから…」と自虐ギャグを飛ばすのを聞きました。
まったく他社のことも他人のことも言えた立場でも身分でもありませんが、「すまじきものは宮仕え」だとしみじみ感じたことを、今回の騒動をきっかけに感慨深く振り返った次第です。はい。それだけです。
杜父魚文庫
8651 Mr.ナベツネに関するささやかなエピソード 阿比留瑠比

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