8658 TOC「制約理論」早分かり 平井修一

ここ数年、世界経済は祟られている。リーマンショック、東日本大震災、米国の景気低迷、欧州経済危機、タイの大洪水・・・女神はちっとも微笑まない。日本は超円高もあって明日の天気も知れやしない。
そんな中、産経新聞11月13日号が「円高でも国内生産続ける方法」というタイトルで、企業経営・生産方式理論のTOC(Theory ofConstraints)を紹介していた。「制約理論」とか「制約条件理論」と翻訳されているものだ。
「TOC 制約理論のひろば」「IT pro」というサイトに詳しいが、イスラエル人物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が考案したもので、本家のゴールドラット・グループやAGI (Avraham Y. Goldratt Institute)を始めとするTOCのコンサルタント会社などが盛んに普及活動を行っている。
日本にTOCが初めて紹介されたのは1997年、稲垣公夫氏著「TOC革命」により、10年前の2001年には主著の「ザ・ゴール」が日本でも発行され、その年の11月には博士が日本初講演している。
ちなみに博士は今年6月、イスラエルの自宅で亡くなった。享年64というからいささか早すぎた。
「凡人は自ら痛い思いをして学ぶが、才人は他者の失敗から学ぶ」というのは同氏の言葉のようである。
さて、小生は永らく零細企業の経営者だったがドンブリ勘定で、「金が足りなければ売上を伸ばせばいい」と単純な売上至上主義。経理は税理士に任せていたので、経営についてはもとより素人であるからTOCについてはざっくりとしか分からないが、まあそれで良しとしてほしい。以下引用するする。
鎖の強度は一番弱い環で決まるように、工場の生産能力も一番能力の小さいところで決まる。製造の場合「ボトルネック」、一般的にConstraints(制約)と呼ぶ。
鎖の強度を上げるためには、一番弱い環の強度を上げなければならず、それ以外の環を強くしてもなんの意味もない。工場の生産量を増やすためにも、ボトルネック工程の能力を上げなければならず、それ以外の工程の能力増強は意味がない。
制約を認識するためには、例えば、原材料供給者、工場、営業、マーケットを一まとめにしてシステムとしてとらえる必要がある。
始めにやることは、どこに制約があるかを見つけ出すことである。制約はさまざまで、原材料の場合もあれば、製造工程の設備能力の場合もある。
あるいは、作った分だけ売れないときはマーケットに制約があるかもしれないし、その場合営業政策に問題があればそれが制約になっていることもある。これを徹底的に見直すのである。
これがDBR(ドラム・バッファ・ロープ)と呼ばれる生産管理手法で、多くの企業が成果を上げた。
・日本特殊陶業が納期を最大83%短縮、在庫半減
・ASEジャパン、テスト工程を重点管理、TOC導入で生産量が3割増
・住野工業、量産にTOC適用し営業利益を4倍に
・グンゼ子会社、工場にTOC導入し生産日数を8割削減
実際は、設備の能力などの物理的な制約よりも、規則や習慣などの方針制約が多くあることがわかってきた。その問題を解決する手法として「思考プロセス」が開発された。
人間が介在するシステムが抱える様々の問題は、その因果関係をたどって行くと、もっと根本的な限られた原因によって引き起こされている、とTOCは説く。その根本的な限られた原因が中核問題と呼ばれ、システムの能力向上を制限している「制約」である。
先ず、われわれが日ごろ抱えている問題(Undesirable Effect;UDE:好ましくない結果)を6~10個程度上げる。例えば、ある開発部門では次のような問題がある。
・新商品が予定通り開発されない。
・設計変更が多い。
・手直し仕事が追加される。
・督促で優先順位がころころ変わる。
・遅れ挽回のため見切り発車をする。
・問題が未解決のまま進む。
・中途半端となり、どの仕事も遅れる。
これらのUDEから3つ選び、それぞれ対立図をつくる。3つの対立図をそれぞれの内容を包含する1つの中核対立図にまとめる。
中核問題を解決するツールが対立解消図である。対立を解消するために、背後にある仮定を浮かび上がらせる。仮定の中で正しくないものを見つけ出し、それを無効にするアイディアを注入(Injection)することで対立が解消される。
対立していた状態が「ぱっーと」消える様子から、対立解消図はEvaporating Cloud(雲の消滅)とか「全体最適理論」とも言われる。
TOCで成功した企業には以下もある。
・長浜キヤノン、「ザ・ゴール」流で調達改革
・北海道電力、TOC活用して資材調達コストを8億円削減
・北越製紙子会社が営業部門にTOC、1人当たり売上高が10%以上増加
・丸五技研、量産プリント配線板を最短4日後に納入
・TOC流思考術で改革を進める日立ツール
博士はここ5年ほどしばしば来日して制約を解消することの重要性や、営業部門やプロジェクト管理へのTOCの応用を働きかけてきた。また、トヨタ生産方式の基礎を築いた大野耐一氏への尊敬の念を積極的に表明し、来日時にしばしばトヨタグループの幹部とも面会していたといわれている。
以下は博士の日本国民へのメッセージ、遺言である。
「コスト削減一辺倒は危険 ITを正しく使えば収益力を高められる」
「終身雇用をやめたら日本の復活はない」
「日本の最大の強みは『和』 基本を再確認し不況から脱出せよ」
「日本は行政改革のモデルに」
「トヨタのオペレーションは尊敬、マネジメントはベストといえない」
杜父魚文庫

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