8700 米国は大統領選挙を控えて政治の季節 宮崎正弘

主張は反中国で過激化。誰がもっとも中国に強硬か、が問われる雰囲気に変質し、中国も態度硬化。
お互いに鼻っ柱が強いから、相手が居丈高にでれば、こちらも、もっと傲岸に。オバマ大統領がインドネシアのバリ島で予想以上に強硬な態度で中国に臨んだことでアジアの十五カ国はどっと勢いづいた。南シナ海における中国の軍事脅威に集団で立ち向かう姿勢に転化したのだ。
豪の空軍基地には海兵隊に平行して、B52,FA18,C-17など長距離をとぶ戦略的配備がなされる。射程外の抑止力と軍事専門家は分析した。
あまつさえフィリピンに米軍が再配備の気配。そしてミャンマーをクリントン国務長官が訪問する。あれよ、あれよとオバマ政権の電光石灰に、バリ島サミットに出席した温家宝はオタオタした。まるで四面楚歌ではないか。嗚呼、楚漢戦争の終盤で項羽を囲んだのは劉備軍、聞こえてきたのは楚の歌だった。
米国へ戻ったオバマを待っていたのは議会からの突き上げである。「その程度では甘い。対中姿勢をもっとタフに!」。
対中強硬派のチャールズ・シューマー上院議員は「会計監査でアメリカ企業を受け入れない中国が、米国内で会計武士事務所を開けるのは不公平だ」と中国に門戸開放を要求せよ、とオバマに迫る。
「中国に報復関税をかけよ」というのは議会の合い言葉になっている。中国の電話会社に査察を入れよ、という声もある。
▲予備選候補者らの対中批判は棘だらけだ
共和党の予備選トップを走るロムニーは「中国は米国から技術を盗み出し、ネットワークをハッカー攻撃し、通貨人民元をやすく不正に操作している。わたしはホワイトハウス入りしたら、初日にそういう」
ペリー・テキサス州知事はもっと過激で「ソビエトがそうであったように中国はやがて歴史の灰と消えるだろう」
唯一、中国に融和的なのはハッツマン(前駐北京大使。元ユタ州知事)だけ。しかしハッツマンはレースに出遅れたうえ、その対中姿勢の甘さが問題視されている。
嘗て選挙中のレーガンもビル・クリントンも、ホワイトハウス入りの前までは中国をこっぴどく批判していた。とくにクリントンは「イラクと北朝鮮と北京にいる狼藉者」と全体主義者を同列においていた。
これらの激しい言葉遣いは選挙キャンペーン上の修辞学であり、選挙民もそのことは分かっているが、民主主義の制度上、ポピュリズムに訴えなければ勝利はおぼつかないというわけだ。
CBSの世論調査では61%が「中国の経済成長は悪いこと」と回答し、「一般的に中国の経済成長は歓迎」という回答は僅か15%だった(ヘラルトトリビューン、11月23日付け)。
四面楚歌に衝撃をうけた北京の外交筋や中南海の政治家と官僚は対策を考える。もっと柔軟な対応をしなければ外交得点を一気に失なうばかりと焦燥するのだが、軍のメンタリティは逆である。
米国の政治的雰囲気では誰がもっとも中国に強硬かが問われ、政治家の発言が日々過激化しているため、中国のナショナリストのなかには対米態度を硬化させる集団がある。経済関係の緊張のみならず軍事的対立という場面が出現しそうな、政治の季節がやってきた。
杜父魚文庫

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