27日にMSN産経ニュースで配信された記者コラム「水内茂幸の夜の政論」を読んでいて、自民党内のTPP反対派の急先鋒であり、親中派議員の代表格である加藤紘一元幹事長が、その反対理由について以下のように説明しているのが注意を惹きました。
「僕は農林族だから反対しているが、問題は農業だけじゃない。これからの世界経済の枠組みを考えたとき、日本を仲間に引き込みたい米、豪、カナダと、日中韓の枠組みを築きたいグループの戦いだ。野田さんは悩んで髪の毛が薄くなるんじゃないか」
これは水内記者が政治家と一杯酌み交わしながらインタビュー取材を行うという企画なのですが、紹興酒をデカンタで注文したという加藤氏は、随分と率直に語ったな、という印象を受けました。
もちろん、このイザでも侃々諤々、いろんな角度からこの問題が議論されてきたように、「私はTPPに反対だが加藤氏なんかとは全く違う」という人の方が多いのは分かっています。
ただ、加藤氏が意図してか意図せずにか告白したように、この問題は日本がどの陣営につくか、という側面も持つことは事実だと思います。そして、いま現在の日本には第3の道、一つの「極」となって単独で立つような経済力も軍事力もありません。特に後者は現状では、法制度上も装備上も人員上も絶対的に不足しています。
また、この加藤氏の言葉に関連して、外交評論家の佐藤優氏が11月5日付のSANKEI EXPRESSのコラム「佐藤優の地球を斬る」で、次のように書いています。これもあくまで一側面についての指摘ではありますが、かなり重要な点だとも考えています。
《日本政府内部で、TPPに反対する勢力には2つのグループがある。第1は、農業団体や医師会などの業界団体である。このグループが自らの利益を擁護するために動くのは、当然のことだ。
第2のグループについて、マスメディアはあまり扱わない。TPPに参加すると中国との提携が難しくなると考える東アジア共同体を支持するグループだ。こういう考えを持つ政治家や官僚が少なからずいる。
中国は水面下で、「TPPに日本が参加しないならば、レアアース(希土類)を安定的に供給する」「日本の米を買う用意があるので、TPPには参加しないでほしい」という働きかけを強めている。
TPPに日本が参加し、日米を基軸とした新秩序がアジア太平洋地域に構築されると中国の帝国主義政策が推進しづらくなると中国指導部は認識している。》
自民党の小泉進次郎青年局長も今月17日、谷垣禎一総裁がTPPに関して「米国と組み過ぎて中国やアジアをオミット(除外)するのは日本にとってよくない」と発言したことにこう反論しています。谷垣氏は、さすがにかつて加藤氏を親分として担いだだけありますね。
「耳を疑う。鳩山元首相が掲げた『東アジア共同体構想』と全く同じ論法だ」
……以前のエントリでも軽く触れましたが、TPPに反対するさまざまな人々の中に、国のあり方の変容を危惧する人たちだけでなく、東アジア共同体構想をいまだに提唱し続ける鳩山由紀夫元首相や、社民党の福島瑞穂党首や共産党などの左派勢力が混ざっているのは、たまたまではありません。
米国をいくら警戒しても批判してもいいですが、国民の中国に対する警戒心の薄さには、どうしてこうまで…と若干不思議に思うのです。
ジャーナリストの櫻井よしこ氏によると、彼女あてのメールにはこのところ、「TPPに反対しないお前はBKDだ」という内容のものが多く届いたそうです。
桜井氏は「面白い言葉が流行っているのね」と苦笑していましたが、そういうメールを送った人たちは、彼女を「売国奴」呼ばわりできるほど、我が国に尽くしてきたどんな実績があるのだろうとこれまた不思議に思うのです。
桜井氏は予定していた某所の農協での講演をキャンセルもされもしたとのことでした。ところで同僚記者によると、「AKB48」ならぬ「BKD48」という言い方もあるとか。
なにやら私自身も「売国奴」と言われているそうですが、ある問題で見解が違ったぐらいでそこまで簡単に決めつけられるのかと思うと残念です。日々、なんだかなあ、と思うことばかりです。
杜父魚文庫
8725 TPPとBKD 阿比留瑠比

コメント
TPPは政治的な話として広まったわけではありません。
経済にとって良い、そんな話として広まりました。
そして話が進むにつれ、経済に関しては賛成派が不利になっていきました。
アメリカ?中国?今頃になってまた別の種類の議論になるのでしょうか。
残念、なんだかなあ、これは国民がマスコミや評論家に対して感じることではありませんか?
気がついていないなら指摘したい。
あなた達はけっこう国民に近い水準で考えているんですよ。
以前なら知識人、評論家、政治家というのは見上げる存在でしたが、今は違いますよ。