8726 中国、オフショアの人民元市場拡大を狙った矢先に欧米不況 宮崎正弘

豪ドル、カナダドルの外貨預金導入、債権市場への外国ファンドも本腰。日本で人民元預金と言えば、HSBC(香港上海銀行)の独壇場だった。それも高額の定期性預金に限定してきた。人民元の将来的高騰を見込んだ機関投資家や富裕層が、多少は預金したが、それほどの効果があったわけではない。
日本ではドルの外貨預金が認められて十年以上になるが、最近は乱高下の多い豪ドル、カナダドルへのシフトが顕著で、ドルそのものは急落以後、講座開設の勢いがおさまっている。
この状況へ殴り込んできた新興勢力。ネット上のバンキング「じぶん銀行」は、いまや130万口座を誇り、このヴァーチャル・バンクが人民元預金を受け付け始めた。それも一万円から口座が開けると画期的なことが分かったため、かなりの申し込みがあるという。
しかし、さはさりながら、これからの人民元の運命である。中国の悲願は人民元をハード・カレンシーにすることで、第一段階は事実上の「人民元決済圏」の構築(直接貿易で人民元決済はベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーなどの国境付近で実現。いまや全貿易の10%)。
ついで第二段階は香港を標的とした。香港では両替レートは、香港ドルより人民元の威力がまさり、人民元預金口座もこの夏までは凄まじい勢いで伸びた。
第三段階はマカオ、台湾などで人民元が流通させることに置かれ、そして第四段階がスワップ取引。二国間の貿易決済を相手通貨と人民元にしてドル離れを助長した。この取引に応じたのはブラジル、ロシア、マレーシアなどである。
これらをバックに中国は2013年にIMF通貨バスケット入りを目指し、当面はSDRのドル、ユーロ、ポンド、円の一角に人民元シェア3%を目ざすと言った。
近年、香港での人民元預金についで、香港の債権市場で人民元の起債を開始、マクドナルドなど大企業のいくつかが、実際に人民元立て社債を発行した。直近で最大規模は宝山製鉄で、36億元の社債をオフショア債権市場で発行した。利率は3・125%から4・375%である。
くわえてオフショア市場での人民元取引を活発化させ、そのオフショア人民元(Free RMB)を中国国内の株式、債券投資に充当できることとした。十月に香港入りした李克強副首相等の根回しが奏功したと言われる。
ところが。ウォールストリートジャーナル(11月29日)に拠れば、「このところ人民元取引の成長カーブがやんだ。つまり人民元が必ずしも高騰する方向にはないとの見方が広がったこと、欧米の景気後退により需要が減退したこと。北京の中央政府のさらなる規制緩和が必要であること」など、問題点がまとめて浮き彫りになったという。
中央政府は通貨供給、金利、銀行監査など諸規制を緩和すると、中央集権がゆるみ、あるいは共産党独裁システムそのものが脅かされる懼れから、あくまでの人民元取引を監視し続けるのが基本路線である。このため人民元口座の増加も、香港で足踏み状態になる。
 
ちなみに香港での人民元預金は八月に6・4%増加だったが九月には2・2%の増加に留まった。「年初には年内に一兆元規模になると期待されたが、はるか及ばずというのが現状だ」(ドイチェ銀行)。
人民元スワップの貿易取引は2011年第二四半期5970億元から第三四半期は5830億元に減少傾向を示した。
これも中国の輸入業者が一方的に人民元で支払って、受け取った相手国は人民元でほかの物資を中国から輸入するか、人民元のオフショアで活用するか、結局、貿易の往復額のバランスの範囲内でしか、このシステムは稼働しない。
輸出基地として「世界の工場」と言われた華南とくに珠江デルタ地区の靴、アパレル、電機部品、スポーツ用品などのメーカーは閉鎖、廃業、倒産が続いており、操業をかろうじて続けている工場でも、賃上げと対偶改善を求める工員が、付近の幹線道路を封鎖するなどの暴力的ストライキが頻発している。
最大理由は国際市場で人民元が自由に換金できないという厳しい現実である。小誌がたびたび予測してきたように人民元の快進撃は、ここで息切れ状態に入った。次は人民元の下落が始まりそうである。
杜父魚文庫

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