8779 泰道三八の「講談・刑務所」 岩見隆夫

面白いと言えば叱られそうだが、しかし、面白かった。鈴木宗男元北海道・沖縄開発庁長官の仮釈放が6日で、翌7日にはやはり仮釈放された泰道(たいどう)三八元衆院議員(旧千葉1区から当選2回、66歳)の報告会が東京都内のホテルで開かれた。これがなかなか、言ってみれば、<講談・刑務所>である。
泰道は信組理事長時代の融資をめぐる背任罪に問われ、刑が確定して、09年5月、栃木県さくら市の喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センターに入所、2年半服役して、仮釈放されたばかりだ。同センターには、あとから守屋武昌元防衛事務次官や鈴木らが入ってきた。
政界では、泰道はプロ級の声帯模写で知られ、ひところ政治家の会合に引っ張りだこだった。この日も、時折、刑務官の声色をまねながら、刑務所生活を軽妙に再現してみせた。
センターは10万坪、2000人の収容能力があり、泰道が鈴木、守屋らと直接、顔を合わせたことはない。だが、取材は精力的にしたらしく、
「本の差し入れは私がトップ。手紙は宗男さん(約1500通といわれる)の次かもしれない。テレビは見られる。新聞も読めるので、ヒマで困ったことはない」という。しかし、受刑者もいろいろだ。ある日、斜め向かいの独房の男が突然、刑務官を呼んで、言った。
「退屈で仕様がないんだ。どうにかならんか」
「みんなそうなんだよ」と刑務官が答えるのを聞いて、泰道はおかしかった。退屈の薬はない。
「独房は絶対にいやだ」というのが2、3割はいるという。孤独感で気が狂ってしまうと恐れているからだ。
受刑者が着るのは昔の囚人服ではなく、ユニクロ製の斬新な運動着。作業日は午前7時10分に起床、食事をして8時に工場前に整列、チームの約70人が点呼を受ける。泰道は用意してきたメモを片手に、点呼の模様を、
「『29』の次に『50』と言うのがいる。『もとい』(やり直し)となる。『43』までいって『16』とか、そんなのが随分いるんですねえ」と今でも信じがたい顔つきだった。数字がわからないはずもなく、受刑者心理は理解を超えている。
作業内容は多彩で、泰道は主として鶴折りをした。20羽ずつ糸に通し、それを50作ると千羽鶴。病院や施設に届けられる。
「私たちは緑の帽子。宗男さんの赤帽子は衛生係で身体障害者の面倒をみたり、洗濯物を配ったり、ついでに握手もせっせとしてた」とこれも取材の成果?
作業は午後4時に終了、休憩、運動時間も挟まるから、実質4時間労働、週休3日、重労働ではない。
「1日の賃金は110円70銭でした」泰道は822日服役して、奨励金を9万1000円受け取った。日割りにすると、そうなる。
<向こう三軒両隣とは仲よくしなければ>と思って、窃盗犯、おれおれ詐欺犯、万引き犯、覚醒剤常習男らと親しくなった。泰道が取材したそれぞれの手口も聞いたが、省略する。
「その1人が『泰道さん、出たら何をするのか』と言うんです。仲間に入れてほしいということらしかった」さて、ほとんどは満期の前、仮釈放になる。鈴木の場合、500日満期を365日で出てきたから、消化率73%。KSD事件の村上正邦元労相も73%。泰道は74%。
「まあ、国会議員はそんな相場らしい。一般は平均八十数%と聞きました」--以上、泰道講談師の一席、会場は笑いが絶えなかった。(敬称略)
杜父魚文庫

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