8798 手負いの人気男、角栄と宗男  岩見隆夫

やっかみとも憤りともつかない声が永田町であがった。「まだ仮釈放だろ。その日に国会のなかで祝賀会を開き、総理大臣経験者まで駆けつけるというのはおかしいんじゃないの。翌日はテレビに出て政治を語ってたなあ。テレビ局もどうかしている。とにかく、けじめがなさすぎるよ」
と自民党の某実力者が嘆くのだ。受託収賄罪など四つの罪で収監されていた新党大地代表、鈴木宗男前衆院議員(六十三歳)が十二月六日仮釈放され、ちょっとした騒ぎを巻き起こした。
祝賀会の前に鈴木さんが記者会見で、「私は生涯政治家。私から政治をとったら何も残らない」などと政治活動の継続に意欲をみせると、これまた気にさわるらしい。来年四月の刑期満了後五年間は公民権停止で、鈴木さんは選挙に出ることができないのに、というわけだ。
「いや、いや、彼ならいろいろやりますよ。選挙は秘書の女性を代わりに立て、ムネさんはその公設秘書に納まるという話を聞いた。秘書バッジがあれば、国会は自由に出入りできるから。まあ、あの人なら何をやるかわからん」と民主党のある幹部は皮肉を込めてもらす。
それもこれも、政治家不信が日常的になっているなか、ムネオ人気だけが衰えないことへのリアクションとみていいだろう。罪に問われながら、なぜこれほどの人気が保てるのか。
戦後、有罪判決を受けた政治家はたくさんいる。そのなかで、判決後も人気者であり続けているのは、田中角栄元首相と鈴木宗男さんの二人だけだ。
田中さんは一九八三年、東京地裁の一審判決で有罪になったが、その年暮れの衆院選では二十二万票の大量得票でトップ当選(旧新潟三区)を果たし世間を驚かせた。八五年、脳卒中で倒れたが、翌年の衆院選では十八万票でまたもトップ。〈不滅の角栄人気〉を思わせたのだ。
いまも毎年のように新しい角栄本が売り出され、結構売れるという。異変が起きると、三・一一東日本大震災もそうだが、
「角さんだったら、どうしたか」と必ず話題にされる。
一方の鈴木さんは二〇〇二年逮捕され、容疑を全面否認、検察側と対立したため、議員としては戦後最長の四百三十七日間勾留された。保釈のあと〇四年、参院選北海道選挙区で四十八万票集めたが落選、しかし、翌〇五年、衆院選比例北海道ブロックでは四十三万票を得て返り咲いた。この新党大地の票は公明、共産両党を上回り、民主、自民両党の約半分に達している。
鈴木さんの一人一党的な人気だけで当選を果たすのは並大抵のことではない。いまも、北海道のどこに行っても、
「ムネさんが頼りです」という道民の声をしょっちゅう聞くのだ。やはり〈不滅のムネオ人気〉を思わせる。
◇保身第一とみられない「国のため、国民のため」
田中と鈴木、この手負いの二人には共通するものがあると私は思う。田中の方が政治家としてのスケールが大きいとか、違いはあるとしても、人気の秘密は似ているのではないか。
第一の共通点は、ともにGNN(義理・人情・浪花節)の類いまれな持ち主だ。政治家は例外なくGNNを大切にするが、二人は他の追随を許さないほど徹底している。日本人はGNNが好きで、これに弱い。だから、罪を負っていても、好感を抱く。いや、罪を問われるのもGNNのせい、と思う人が多いのかもしれない。
第二に、顔に愛嬌と庶民性があり、話がわかりやすく情熱的だ。背は高くなく、フットワークが抜群によく、こうした姿形、言動から伝わってくるのは、がむしゃらに休みなく突っ走る男性的な弾丸イメージだ。みんなが、何かやってくれそう、と期待をつなぐのはよくわかる。
第三、目配り、気配りは政治家に求められることの一つだが、この二人ほどたんねんな配り方をするのもめずらしい。しかも、配るだけでなく、間髪を入れず行動に移していく。めったにいない。
第四、裁判ざたになったように、二人とも金銭疑惑にさらされた。ただ、「あれだけの仕事をするなら、カネもいるだろう」とみている人が案外多い。
そして第五、これがいちばん大切な点だが、二人とも、「国のため、国民のため」を最優先順位に置いて一途に奔走している、と支持者だけでなく、一般国民にも感じとられていることだ。実際に実績をあげている。国と国民のことを考えない政治家はいないはずだが、肝心なのは優先の順位だ。
自己保身第一、自分の選挙第一の政治家が多いとみられているなか、田中さん、鈴木さんがそうみられていないのは、以上の五つの資質によるところが大きいと思われる。このタイプだけが最良、最高と評価しているのではない。だが、角さん、ムネさんと愛称で親しまれながら、断固遂行型を貫く政治家がいないと、政治にはずみがつかないのである。
鈴木さんは二年前、『汚名--国家に人生を奪われた男の告白』(講談社)という本を刊行した。そのなかに〈止まった逆風〉という一文がある。
〈グッドニュースは、小さな声で囁くように聞こえる。二〇〇五年、年が明けたころから小さな変化が起こりはじめた。たとえば、東京駅の新幹線ホームや羽田空港の搭乗口のロビーで、人々の反応が変わってきたのだ。
「カラダ、大丈夫? 無理しちゃだめよ」
「がんは治ったの? これからは応援するから」……〉
という書き出しだ。〇四年は最悪で、勾留、胃がん、実母の死去、参院選落選、有罪判決と続き、世間からすっかり忘れ去られた。ところが、風向きが変わる。
〈ここまで酷い状況になれば、さすがに世間も同情したくなったのだろう〉と鈴木さんは変化の理由に触れているが、多分それだけではない。理屈でなく、世間はムネさんが好きなのだ。(サンデー毎日)
 
杜父魚文庫

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