韓国の朝鮮日報が北朝鮮の「労働党中央軍事委員会」の顔ぶれを紹介し、金正恩新体制を分析している。18人のメンバーのうち民間人は正恩氏を含め5人。先軍政治の金正日体制が、新体制で朝鮮労働党主体の新体制に移行するという見方があるが、それは疑問である。
むしろ金正日総書記の急死によって父親の軍重視路線を否応なしに継承することを迫られている。ただ金正日時代の趙明録国防委員会第1副委員長兼総政治局長、金永春人民武力相らから新しい軍指導者・李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長、金英徹(キム・ヨンチョル)軍偵察総局長らへ実権が移りつつあるとみている。
昨年の黄海北方限界線(NLL)の延坪島に対する奇襲砲撃事件は、軍強硬派である李英鎬次帥と金格植(キム・ギョクシク)第四軍団長が主導したといわれる。李英鎬・金英徹・金格植ラインの軍強硬派が金正恩の後ろ盾になった可能性が濃い。
「労働党中央軍事委員会」は金正日時代には有名無実、開店休業の存在だった。一九九八年九月五日の最高人民会議で北朝鮮は、金正日総書記を共和国国防委員長に推戴し、国防委員会が最高指導機関となった。これによって北朝鮮の権力構造は大きく変わった。国防委員会のメンバーはほとんどが軍人。これが先軍政治といわれるものである。
この国防委員会を掌握したのは北朝鮮軍ナンバー2・趙明録、抗日パルチザン世代の生き残り。二〇一〇年十一月七日に心臓病で死去した。私は趙明録の後継者は金永春(キム・ヨンチュン)人民武力相になるとみた時期がある。金正日の最側近で抗日パルチザン世代(少年兵だったといわれる)。
この国防委員会に代わって「労働党中央軍事委員会」が脚光を浴びているのは、金正恩時代を意識した金正日総書記の意向があったのではないか。ありていにいえば、抗日パルチザン世代の軍指導体制を新しい軍強硬派体制に移行する狙いがあったのではないか。
<北朝鮮の朝鮮労働党中央軍事委員会で、金正恩(キム・ジョンウン)氏以外に最も注目すべき人物としては、李英浩(リ・ヨンホ)朝鮮人民軍総参謀長(69)が挙げられる。韓国の合同参謀議長に相当する李総参謀長は、昨年9月の党代表者会で、正恩氏と共に党中央軍事委員会の共同副委員長に任命された。名実共に朝鮮人民軍の「看板」で、正恩氏の権力基盤を支える中心人物だ。これまで師団参謀長、軍団作戦部長、総参謀部作戦局副局長を歴任するなど、軍事作戦に精通している。2009年2月に大将に昇任した後、昨年9月に一般軍人が就くことのできる最高ポストの次帥に昇進した。※朝鮮日報の「李英浩」は「李英鎬」のこと。
李総参謀長が率いる総参謀部は軍の作戦権を掌握しているが、軍の人事・監督権を有する総政治局からは、キム・ジョンガク第1副局長(70)が党中央軍事委員に選出された。韓国の情報当局の関係者は「正恩氏は09年上半期から、キム第1副局長を通じ、軍の一挙手一投足を監視してきたと聞いている」と語った。
軍内部で正恩氏に反対する勢力をあぶり出す役割を担っているというわけだ。キム第1副局長と共に、直属の部下に当たるキム・ウォンホン副局長も党中央軍事委員に選出されたが、これは正恩氏による軍部の掌握をそれほど重要視していることを示唆している。
このほか、軍の階級を持つ民間人の委員で、軍人以上に大きな役割を担っている人物もいる。党組織指導部のキム・ギョンオク第1副部長がその代表格だ。組織指導部は、党・政府・軍の幹部たちの人事を管理する中心的な権力機関だ。金総書記が死去する直前まで、組織指導部長は金総書記が兼任していたが、今後は正恩氏が同部長に昇格するものと予想されている。
このため、キム第1副部長が正恩氏の命令を受け、軍だけでなく全ての機関の人事権を掌握する可能性が高い。なお、キム第1副部長は昨年9月、正恩氏と共に朝鮮人民軍大将の称号を授与されたが、それ以外に目立った経歴はない。
一方、張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長(65)や崔竜海(チェ・リョンへ)書記(61)も注目すべき人物だ。張部長は正恩氏のおじに当たり、後見人の役割を担っている人物だ。現在の党の要人は全て張部長に近い人物で占められていると言っても過言ではなく、金正恩体制を支える最高の実力者だ。
崔書記は正恩氏が後継者として公の場に登場した昨年9月、党代表者会で党政治局委員候補、党中央委員兼書記、党中央軍事委員などの肩書きを与えられた。また、キム・ギョンオク組織指導部第1副部長と共に、朝鮮人民軍大将の称号を授与され、幹部による写真撮影の際には、正恩氏の真後ろに立つことが多い。崔書記は正恩氏の祖父、故・金日成(キム・イルソン)主席のパルチザン時代の同僚とされる崔賢(チェ・ヒョン)氏の次男で、出身成分(身分)も最も高い。
金総書記の信任が厚かったチュ・ギュチャン委員も強い権力を有する人物だ。チュ委員は核開発を主導しているとされる党機械工業部の部長を務めている。金総書記の死後、権力継承の過程で核問題が重要視されるにつれ、チュ委員の役割もますます増大するものとみられる。
このほか、軍人出身の党中央軍事委員には、韓国海軍哨戒艦「天安」撃沈事件を主導したとされる金英徹(キム・ヨンチョル)偵察総局長も名を連ねている。同局は韓国やそのほかの国に対し、あらゆる工作任務を担ってきた労働党35号室と作戦部が合併して発足した機関だ。(朝鮮日報)>
杜父魚文庫
8833 北朝鮮軍部の分析 古沢襄
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