さてアメリカの新年の最大政治イベントはもちろん大統領選挙です。その一端がはやくも1月3日のアイオワ州共和党党員集会で始まります。以下のような記事を書きました。今朝の産経新聞朝刊です。
■【緯度経度】ワシントン・古森義久 大統領選挙と歴史の類似
2012年は周知のように米国の大統領選挙の年である。振り返れば、私が米国大統領選を体験した回数もずいぶんと多くなった。はっきり報道の対象としてかかわった初の選挙は、1976年の共和党フォード大統領と民主党カーター前ジョージア州知事との対決だった。
以来、80年のカーター対レーガン、88年の先代ブッシュ対デュカキス、92年の先代ブッシュ対クリントン、96年のクリントン対ドールの対戦も直接に 取材にあたった。2004年のG・W・ブッシュ対ケリー、そして08年のオバマ対マケインの選挙戦もたっぷりと体験した。
実際に目撃し、接触した合計7回の選挙キャンペーンのなかで現在の選挙戦の形からまず連想するのは1992年の実例である。選挙はまさに水もの、目前の光景からはるか先の結果を予測することの危険への教訓でもあった。
当時のブッシュ大統領は投票の1年ほど前にはなんと90%という史上最高の支持率を得ていた。ソ連の崩壊にみごとに対処し、湾岸戦争ではイラクのク ウェート占領をうまく粉砕し、無敵の騎士のようだったのだ。
現職大統領の超人気に野党の民主党側では当初、正式の名乗りをあげる候補が出ず、「白雪姫と7人の小人」という表現をも生んだ。グリム童話のように魅力ある姫のまわりを7人の小型の人物たちが動き回るだけ、という意味だった。
オバマ大統領に対する共和党候補は今月中旬の討論会ではちょうど7人だった。ロムニー、ギングリッチ、ペリー、バックマン、サントラム、ハンツマン、ポール各氏からは、これぞという決定的な印象が伝わってこない。
だが92年のブッシュ大統領は支持率を30%台にまで落とした。失業、不況、財政赤字、指導力欠如という要素が原因にあげられた。ここでも現在への類似を思わされる。
現状への政策面での類似を感じさせるのは、80年の民主党リベラル派のカーター大統領と共和党保守派のレーガン候補の対決である。カーター氏は国内的には「大きな政府」に徹し、福祉や公共事業を増大し、企業の規制を強め、対外的にはソ連へのソフトな融和路線を推した。その結果、財政赤字が記録破りにふくれあがり、金利とインフレを高め、失業を増した。ソ連は増長し、アフガニスタンに大侵攻した。
レーガン氏はこの政策のすべてに反対する超保守主義を掲げた。「小さな政府」と防衛力強化を進め、自助努力や民間活力の重視を唱えた。これらの政策は功を奏し、保守主義は米国の政治史でも初めて草の根に浸透した。
リベラル対保守のイデオロギー面での対決は今回の選挙でも最大の特徴の一つである。表面ではオバマ大統領の経済運営の不備からの高失業率などが争点にみえるが、共和党側は、攻撃の真のホコ先は連邦政府の役割を拡大するリベラリズムの「大きな政府」策へと向けている。オバマ大統領の施策を国家の権限を増す社会主義的志向とまで断じ、思想や理念の対決を挑んでいるのだ。
さて米国の大統領選に温故知新の教えがどこまで生きるのか。これからの10カ月ほど、またみきわめたいところである。
杜父魚文庫
8870 アメリカ大統領選はどうなる 古森義久

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