日本が中国の国債を購入することは文明史的にどういう意味があるのか。米国メディアはドル離れにつながるのではと日本への懸念を表明している
野田首相の訪中(12月25日)で日本政府は外貨特別会計の枠から人民元建ての中国国債をとりあえず390億円分購入することで合意がなった。2012年中には7800億円にまで増えるという。
日本の目的は外貨準備の多様化、人民元での直接投資の後押し、さらには人民元の国際化支援というところだろう(ナショナリストからみれば中国を支援する日本の犠牲ということになるが、この論ではその批判は措く)。
日中首脳会談で、「温家宝首相は『中国は両国通貨の金融市場での発展推進を希望する』と述べ、日本が中国国債を買う方針を歓迎した。日本政府が、人民元建ての中国国債を購入すれば、保有の動きが各国に広がり、人民元の国際化を後押しする効果が期待できる。中国側はすでに日本国債を保有しており、持ち合うことで協力関係を強める」(読売新聞、12月26日)
中国側は、じつは「渡りに舟」の提案であり、日本が中国国債を購入してくれることは有り難い限り、しかし中国のネット上ではナショナリズムの観点から、日本に売るなという声も一部に聞こえた。
米国は日本がドルを見捨てる行為にも繋がりかねず、不愉快きわまりないと考えられるが、批判的論調は影を潜め、淡々とニュースを伝えたメディアが多かった。或いは殆どのメディアは無視した。
もっとも懐疑的だったのはリベラル派のメディアだった。たとえばニューヨークタイムズは、「世界第二位の中国と三位の日本が通貨協定に合意したことはドル使用から離れる動きの一部である」と懸念を行間に含めて、通貨戦略上の位置づけを試みた。
同時に「中国は人民元が世界的規模で通用することを望んでおり、(日本いがいの)多くの国でドル以外の通貨使用を待ち望んでいるからである。中国はドルが世界中であまりにも過重に使われており、中国の勃興にともなって世界システムがもっと均衡ある通貨システムへ移行すると信じているからでもある」(以上は12月26日付け)。
▲ドル減価、ならば日本も防衛手段として?
客観的事実を眺めると、日本との貿易パートナーは中国が一番、米国は二番目に変化しており、日中のビジネスの絆はこれからもますまる深まり、通貨システムの改善(就中、人民元での決済)は、明らかに自然な方向である。
そしていかにもアメリカ的解釈がNYタイムズの報道では続いた。
「日本にとってこそ、とくに重要な意味を含むのは、日本は過去に蓄積してきた外貨準備を米国国債で保有したためドルの減価に悩んできたのであり、円高によって日本製品はさっぱりアメリカの庶民から(高すぎて)そっぽを向かれたのである。さらに日本から見ればドルに対して人民元は40%も過小評価され、日本円に対しては45%も過小評価されている(この数式の立脚点は不明。アメリカUSTRあたりの計算だろう)。
日中が貿易決済で直接的な取り決めで進めると、為替決済の煩瑣な再交換手続きも簡素化される。だが米国にとって、日中間のこうした通貨取り決めは、今後長きにわたって、ドル決済のボリュームが減少していくことである。太平洋の周辺の国々が、この動きに加わるとなれば、中国が明らかに環太平洋の貿易決済いおいて人民元の影響力が強まり、米ドルは重要性を徐々に失っていくだろう」
米国の懸念が日本の中国国債購入表明に露骨に出た、と言うべき論調だった。
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読者の声
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(読者の声) 貴誌前号の広東モデルvs重慶モデルの対立ですが、この対立をアメリカにおける <ティーパーティー運動 (Tea Party)>と<‘ウォール街占領’デモ (OccupyWallSt)> の アナロジーでとらえるのも一興かと。(TK生、世田谷)
(宮崎正弘のコメント)なるほど面白いかも知れませんね。なにしろアイオワで中道穏健派ロムニーが勝利したとはいえ、のこり五人は全員が保守派であり、ロンポール、ニュート、バックマンらの票を足せば、75%が保守派ですから。党内保守の分裂がロムニーを助けた結果ですね。
杜父魚文庫
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