8900 日本には戦略がない!? 古森義久

産経新聞の湯浅博記者の一文です。戦後の日本にはそもそも安全保障に関する戦略という概念や意識が存在しないのではないか、という趣旨です。
新年に日本の行く末を考えるには、格好の材料だと思いました。
<<■【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博 戦略的ダチョウ派の出番>>
今年の年賀状に、「東アジア情勢ますます不安定、戦略家の出番に」と書いた友人がいた。「同感」と思いつつも、日本にどれほどの戦略家がいるのだろうかと首をひねった。戦略家というからには、時世の変化に柔軟対応して国家のありうべき姿を描けねばならない。
皮肉屋は日本人には「戦略家どころかハト派もタカ派もいやしない、いるのはダチョウ派ばかりだ」と言っていた。政治指導者でいえば、2代続いた夢見る友愛主義者と偽善的ポピュリストのことだろう。
飛べない鳥類のダチョウは、危険を感じると砂の中に頭を突っ込んでやり過ごす習性があるという。頭隠して尻隠さずの滑稽な姿から、欧米では現実逃避の不名誉な言葉として使われる。
ダチョウの名誉のためにいえば、実際は敵の接近を探るため、地面に伝わる音を頼りに仲間に危険を伝えるためだとの説がある。これが本当なら、ダチョウ派 は情報を的確に捉える危機回避の優れた能力の持ち主ということになる。果たして、日本は現実逃避型か情報重視型か、どちらのダチョウなのだろう。
政府の事故調査・検証委員会がまとめた東京電力福島第1原発事故に関する中間報告を読むと、すぐに判別がついてしまう。事故直後の首相官邸内は、まるで現実逃避のダチョウが右往左往していたのだ。
官邸5階に詰めた当時の菅直人首相ら政府首脳部と、官邸地下の危機管理センターに駆け付けた各省幹部との連絡がバラバラだった。地下がいくら情報を5階の司令塔に上げても、適切にくみ上げないから相互不信ばかりが積み上がる。
官邸地下に飛び込んだ放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」の情報も、5階に伝えられない。その心は、担当官が予測システムへの信頼性を軽視し、あるいは5階の政府高官への信頼欠如がそうさせた。早急に公表されていれば、住民たちが適切な避難経路で逃げることができた。
生死に関わる情報を握りつぶした人物への処罰も、それを逃した菅政権の責任も問われていない。地下と5階が互いに能力と識見を疑い、5階は不都合な情報を打ち捨てた。
まるで日米開戦前の大本営陸軍部のようだ。ロンドンの駐在武官が「ドイツ軍は勝てず」とナチスによるロンドン大空襲の失敗をいくら打電しても、陸軍指導部はこの情報を無視した。ドイツが対英米戦でつまずけば、日独伊三国同盟の“優位”の前提が崩れてしまうからだ。作戦が先にあって、これに沿った情報しか受け付けない。
いまほど情報を的確に捉えるダチョウが必要な時代はない。隣には中国とロシアの軍拡路線があり、北朝鮮に誕生した金正恩(キム・ジョンウン)体制は核開発を継続する「先軍政治」である。3代目の金王朝は、日本政府による公式弔意がないと野田佳彦首相を非難し、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領を「逆賊一味」呼ばわりした。いまだ基盤の弱い北は、外に脅威をつくって求心力を強化しようと跳ね返る。
野田政権は「専守防衛」という自己規制の無意味さを知るべきだろう。課題はいまだ多いが、武器輸出三原則を変え、宇宙開発に軍事分野を排除しないと決定したのは妥当であった。ドジョウ政権内にも、少ないながら現実主義的なダチョウの戦略家がいるのかもしれない。
杜父魚文庫

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