8917 オバマ戦略が米軍の弱さを示す 古森義久

アジア重視を掲げるオバマ大統領の新軍事戦略へのワシントン各界の反応です。日本ビジネスプレスの古森義久の連載「国際激流と日本」からの転載のつづきです。原文へのリンクは以下です。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34274
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ワシントン・ポスト紙のこの主張は、オバマ新戦略の「中国への抑止力増強」という特徴には触れていない。対中戦略自体を批判はしていないのだ。
その代わりにアジア・太平洋地域以外でも米国の国家安全保障やグローバルな利害にとっての大きな脅威は、なお存在することを強調しているのである。米国にとっての危険や脅威は決して中国だけではない、というわけだ。この指摘は、米国がいま唯一の超大国としてグローバルな責任を保つ存在であることを考えれば、決して不適切ではない。
日本の安全保障をまず優先して考える私たちとしては、中国への対応を重点的に眺めてしまうが、中東や中央アジアにおける米国の安保活動の重要性も見逃してはなるまい。そんな基本点を想起させられる論評なのだ。
イラクやアフガニスタンでのやり残した使命
第2のオバマ戦略への反対論は、上院の大物議員ジョン・マケイン氏の意見である。
マケイン議員はもちろん共和党の有力議員である。2008年の大統領選ではオバマ氏と戦い、敗れたが、軍事や安全保障に精通し、イラクで米軍が苦戦している際に2万人の兵力増派を提唱し、ときのブッシュ政権のイラク平定に大きく寄与した実績がある。
そのマケイン議員が今回のオバマ戦略に対し、「米国に、ジミー・カーター大統領時代以来の最大の危機をもたらすことなる」として反対を表明した。
マケイン議員の発言は以下のようである。
「オバマ大統領が発表した軍事新戦略の特徴である国防費の削減、そして戦力の削減は、財政面での必要性から見て不可欠な部分も多い。だが、例えば 核戦力の一方的な削減は、かえって危険だと思う。イラク駐留米軍の完全撤退も同様に危険だ。いずれも米国の弱体さ、脆弱性を潜在敵対勢力に印象づけ、それら勢力の冒険主義をあおることになるからだ。イランがその最も顕著な例だと言える」(つづく)
オバマ大統領の「アジア重視新戦略」への批判紹介のつづきです。
「イラクではせっかく民主主義政権が軌道に乗ったのに、オバマ新戦略ではそれを支援する米軍が事実上にゼロとなる。歴代の米国の国防長官や国務長官はイラクに対し、米軍が2万とか、あるいは最小でも3000人という規模で長期に駐留するという方針をほぼ公式に伝えてきた。だが、そのイラク側の期待が今や完全に裏切られることとなるのだ」
「アフガニスタンでも、オバマ大統領は米軍の最高幹部からの提案を退ける形で、『新戦略』の名の下での撤退を断行しようとしている。しかし、アフガニスタンではまだ反政府テロ勢力が新たな軍事攻勢を意図していることは明白だ。少なくともあと1度の軍事対決が不可避なのだ。それにもかかわらず米軍が全面撤退してしまうことは、アフガニスタンの民主主義国家建設に対する深刻な危機を意味する」
この主張もまたワシントン・ポスト同様に、米国の軍事戦略をグローバルな観点から眺める姿勢だと言える。中国への抑止を優先するあまり、これまでの米国が2001年以来の最大の戦略目標としてきた、イラクやアフガニスタンでのテロ撲滅と民主国家建設という課題に、志半ばのまま背を向けることになる、という警告である。
マケイン議員は野党の共和党の有力政治家だから、民主党のオバマ大統領の安全保障政策に反対することは、いわば当然だとも言えようが、その反対論の指摘は極めて具体的である。
具体性に欠け、現実味に乏しいアジア作戦
さて、オバマ新戦略への第3の批判は、ヘリテージ財団のアジア専門の上級研究員ブルース・クリングナー氏の論評である。この論評は、軍事力をアジ ア・太平洋に集中させるという部分に焦点を絞って疑問点や欠陥を指摘している。ヘリテージ財団は共和党系だが、この評論は客観的な考察としての説得力を感じさせる。
クリングナー氏の論評の要点は以下の通りだった。
「オバマ大統領は、『米国はアジア・太平洋での軍事プレゼンス強化策として、パワープロジェクション(遠隔地への兵力投入)能力を増強することで 駐留米軍の規模の増大を図り、その場合、同地域の既存の他の兵力を削減することはしない』と言明している。しかし、オーストラリアへの海兵隊の新規派遣以外に具体策は何も述べていない。国防総省高官は、オーストラリアへの海兵隊派遣の際に沖縄駐留の海兵隊の一部を単に回すというような措置は取らないと言明している。だが、ではどこから持ってくるのかというと、明確ではない」(つづく)
杜父魚文庫

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