8918 バタバタ、ソワソワ、チマチマでなく 岩見隆夫

〈中央政治に人なく、地方政治に人あり。液状化に鉄槌を!〉京都府某市の元市長さんの賀状である。液状化というのは政治のことか、日本社会全体のことか、とにかく怒っている。
〈信念・覚悟・熱意に欠け、緊張感・危機感・責任感・現場力のない政治に疑問を感じております〉山口県下関市在住の友人、元地方銀行幹部の賀状にはそうあった。日ごろ温厚なバンクマンも憤りを隠していない。また、横浜市の先輩記者は、
〈日本沈没は小説ではなく、現実になるのでしょうか。喝!〉と書いていた。
 こんな年もめずらしい。日本列島どこもかしこもいらだちの新年を迎えたのである。賀状は世相そのものだ。
私は省事を口実に、何年も前から賀状をやめていた。年一回のごあいさつに意味があることは承知しているが、ものぐさライフスタイルの結果で、お恥ずかしい限りである。
もともと賀状はいただいたのを保存しておいて、年末それを見ながら出すのが通例と思っていた。そうであるなら、拙宅に届くのは年々減り、ついになくなる理屈だ。ところが、今年は去年より増えているみたいで、恐縮してしまった。
一枚一枚丁寧に拝見し、例年と違う雰囲気を感じた。三・一一東日本大震災のインパクトが大きいのはもちろんだが、それだけでなく、ご紹介したように一年間に溜まりに溜まったものを吐き出す短い言葉を書き添えてあるのが目立った。賀状の重みを改めて発見し、私も今年末、生きていたなら、再開することに決めた。
余計なことを書いたが、さて、どうなる二〇一二年の日本。経済誌を主宰する老ジャーナリスト、Hさん(東京)の賀状を、少々長いが全文引用させていただく。
〈二年前、政権交代で「新しい政治」を期待したのに、民主党はルーピーな鳩山、分裂症的な菅、どじょう以下だった野田と、内政外交ともシロウト政治家が蟠踞し、古い自民党時代が懐かしく思われてきました。
世の中、気分よく過ごすためにはGNN(義理と人情と浪花節)が必要と思われます。政治は大事なことですが、所詮人間の為すことはGNNで解決することが肝要です。
私が秘かに期待しているのは、近年に行われるであろう衆議院選挙に都知事・石原慎太郎氏が立候補して、国会復帰、総理への期待です。いまや政界に一人といえど日本の政治を託す人がほかに見当たらないからです。一日も早い石原氏の国政復帰を願い、世界全体に目配りするような政治の灯を燃やしてほしいと思っています〉
◇汗のかきがいある社会への道筋示すのが政治
Hさんのアピールに私は原則的に賛成である。すでに亀井静香国民新党代表を中心に、去年から〈石原新党〉の準備が進んでおり、近々、具体的な動きがあるものと思われる。
石原さんが都知事を辞め、衆院選出馬と新党旗揚げを宣言すれば、民主・自民二大政党による現体制に激震が走るのは言うまでもない。民主ダメ、自民ダメと思っている多くの有権者の票をかき集め、有力な第三勢力を形成し、政局の主導権を握る可能性を秘めているからだ。
〈石原首相〉を大歓迎しているわけではない。石原さんは今年八十歳になる。すでに首相適齢期を過ぎており(歴代最高齢は七十七歳で就任した終戦時の鈴木貫太郎)、これまでの過激な言動も気になる。特に米中両超大国は石原さんに警戒的だ。東日本大震災を、
「我欲の日本人に下った天罰だ」と言ったのは、作家的な感性によるものだとしても、到底受け入れ難い。
だが、Hさんが言うとおり、発信力のある大物がほかにいない。石原さんが決意すれば日本の政治閉塞を打ち破る突撃隊長のようなもので、そこから本格的な政治改造が始まりそうな予感が、私にはする。それがHさんに賛成する理由だ。
一方、自民党の三役を務めた長老(山梨)の賀状にはこう書かれていた。
〈「辰」という字は、万物の形が整って活力が盛んになる様子と言われています。
明治維新、日露戦争、最初の普通選挙、東京オリンピック、九州・沖縄サミット、全て辰年です。良きにつけて、何か大きなうねりのきっかけが生じる年になりそうな気がします。明るい動きのある年になることを願っています〉
怒りの半面で、期待、願望がつのる。記者仲間の一人(東京)も、
〈考えてみれば、昨年は散々な年でした。四方八方から日本の壊れる音が聞こえてハラハラしたものです。年が明けて、疫病神の年が去ったかと思うとホッとします。
もっとも、悪いことばかりがそうそう続くわけではない。混迷・混乱の後は平穏と静謐が、失望と絶望の後には希望が待っているのでしょう〉と予測したが、平穏な年には到底なりそうにない。
高級官僚OBからの賀状はユニークで、
 「福祉は天から降ってくるものではなく、外国から与えられるものでもない。日本人自らがバイタリティーをもって経済を発展させ、その経済力によって築き上げるほかに資金の出所はないのである」
という田中角栄元首相の言葉だけを紹介していた。何かと言えば、政治家が悪い、官僚が悪い、の大合唱ですまそうとするメディア、世論に反発しているものと思われる。これも今年の重要なテーマの一つだろう。
角栄さんが言うとおりだ。批判も期待も結構だが、それだけでは何も解決しない。自らが汗をかくしかないのだ。わかっている。
しかし、またもとに戻るが、汗をかきやすいように、汗のかきがいがあるように、そして汗をかきながら、どんな社会にたどりつこうとしているのか、それらの道筋を明快に示してみせるのが政治のリーダーシップではないのか。いまはただの漂流だ。
バタバタ、ソワソワ、チマチマでなく、今年はじっくり腰を据えて、根本的なことを考える年にしよう。(サンデー毎日)
杜父魚文庫

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