本日、野田佳彦首相は初めての施政方針演説を行いました。野田首相は「行政改革に不退転の覚悟で臨む」と主張し、独立行政法人や特別会計、公務員制度などの改革に意欲を示しましたが、私が気になったのは「天下り」という言葉を一切使わなかったことです。
そういえば最近、政治家や官僚と話していても「天下り」云々という言葉を聞かなくなりました。一時はあれほど国政の中心課題のように毎日、目から耳から飛び込んできたものなのに、民主党政権が発足すると、だんだん天下り根絶を求める声はフェードアウトしていき、「官僚を最大限に使う」と主張する3代目の野田首相の登場とともに完全に忘れ去られてしまったかのようです。
あんなに国民の注目を集め、新聞は当然としてテレビニュースでも毎日のように取り上げられていたのに、隔日の感がありますね。最近はむしろ鳩山、菅両内閣が官僚を使いこなせず、それどころか敵視してかえって行き詰まったという部分が重視され、民主党政権が天下り問題をほとんど放置していることは意識になかなかのぼらないようです。
そんな中、1月14日付東京新聞の社説「増税前にやるべきこと」は光っていました。この社説は、ひたすら国民が望まない増税に突き進む野田政権に対し「増税の前にやるべきことがあるだろう」として、被用者年金の一元化などの抜本改革が手付かずであることを指摘した上でこう書いています。
《さらに、取り組むべき行政改革から「天下り根絶」が完全に抜け落ちているのはどうしたことか。
天下り先の独立行政法人に多額の予算を投入し、その法人が仕事をさらに下請けに丸投げする。この「天下り・丸投げ」構造を改めない限り、行政の無駄はなくならない。天下り根絶こそまさに行革の本丸だ。》
……10日も前の他紙の社説をわざわざ引っ張り出してきたのは、さきほど、いま話題の野田首相の2009年8月の衆院選時の大阪府堺市での街頭演説のユーチューブ映像を改めて見て確かめて、やはりきちんと触れておきたくなったからです。野田氏はこのとき、演説でこう述べています。
《マニフェスト、ルールがあるんです。書いてあることを命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです。それがルールです。(後期高齢者医療制度など)書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか。書いてあったことは4年間、何もやらないで、書いていないことは平気でやる。それはマニフェストを語る資格がない。
その(マニフェストの)1丁目1番地は「税金の無駄遣いは許さない」ということです。天下りを許さない。渡りは許さない。それを徹底していきたいと思います。
消費税1%は2兆5000億円です。12兆6000億円ということは、消費税5%分ということです。消費税5%分の皆さんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているんです。
それなのに、シロアリを退治しないで、今度は消費税を引き上げるんですか。消費税の税収が20兆円になるなら、またシロアリがたかるかもしれません。鳩山さんが「4年間、消費税を引き上げない」と言ったのはそこなんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。
そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。徹底して税金の無駄遣いをなくしていく。それが民主党の考え方です。》
……鳩山由紀夫元首相も菅直人前首相もいまや伝説的な「ブーメランの使い手」でありますが、この野田首相の演説は彼らを超えたクオリティーの高さです。野田首相は最近、「マニフェストに書いていないことをやるのはけしからんと言われたら、何もできない」と野党側を批判しているだけに。
もちろん、野田首相が独法改革に意欲を示していること自体は悪いことではありません。でも、それとて09年のマニフェストの「全廃も含めた根本的な見直し」と比べると大いに見劣りするというか後退していますね。これらの改革でいくら歳出削減できるかの試算も示していませんし。
演説で野田首相は、わざわざ福田康夫元首相と麻生太郎元首相の言葉を引用して自民党への抱きつきも図りましたが、これも功を奏するとはあまり思えません。引用された二人も「お前が言うな」と思ったことでしょう。
まあ、なんだかどこかで聞いたようなセリフをうまく切り貼りしてあって、「巧言令色少ないかな仁」という印象を受ける演説でもありました。反省と自嘲も込めて書くと、ある意味、ある種のジャーナリスト的手法かも。
杜父魚文庫
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