9025 「橋下」を迎え撃たないのか 岩見隆夫

平成の風雲児と言うべきか、このところ、橋下徹大阪市長がメディアに登場しない日はない。だが、大都市とはいえ、橋下は一地方首長である。それが中央政界の中心に張り出し、再編の渦を起こしそうな雰囲気になっているのは、前代未聞のことだ。この風潮は好ましいのか、要注意なのか。
3年前を思い起こす。やはりテレビで顔を売り、地方政界に転じた人気者、東国原英夫・宮崎県知事が、自民党に衆院選出馬を求められ、
「私を次の自民党総裁候補として、衆院選を戦うご覚悟があるのか」と切り返す爆弾発言をして驚かせたことがあった。そのころ、もう一人の人気男だった橋下大阪府知事は最初、
「しゃれとしか思えない」と首をかしげたが、すぐに軌道修正し、「すごいですね。真っ向勝負している。すごすぎる。一知事ではない」と興奮気味に語っている。当コラムは、この時の東国原ショックを、
<日向の国からミサイル>という題で書いた(09・6・27)。ミサイルは不発に終わったものの、まもなくの衆院選で大敗した自民党の運命を暗示する騒動だった。
さて、橋下率いる地方政党<大阪維新の会>の国政進出計画は、東国原の個人プレーとは違う。先日、橋下はマニフェスト(政権公約)づくりに着手したことを明らかにし、次期衆院選には300人程度を擁立、一気に200議席の確保を目指すという。
まるで国盗(と)り物語、維新の会が大阪でフィーバーしたからといって、全国規模でそんな大量当選を果たせるはずがない、橋下特有のハッタリだ、長い歴史を刻んだ既成政党を軽んじるにもほどがある、などと永田町はにぎやかだ。
なかには、「石原さん(慎太郎・東京都知事)がやろうとしている新党構想とドッキングすれば、ひょっとして第1党に躍り出るかもしれない。これじゃあ、とても衆院解散なんかできない。遠のくね」(民主党幹部)という声もあって、解散時期まで左右しかねない。
野田佳彦首相のシロアリ発言(中央政党が維新の会にすり寄る動き)も加わって、政界の反応はかつてない屈折した様相を示している。ある中小政党の党首は、
「あの人(橋下)、すごい現実主義者だから」と複雑な笑い方をした。浪速流で、しっかりソロバンをはじいたうえでないと動かない、と聞こえる。そうかもしれない。
とにかく、東京から眺めていると、情報が拡散するせいか、42歳の橋下の実像がつかみにくい。大阪の「毎日新聞」の同僚に問うてみた。率直な印象は--。
「大阪が久々に生んだスターだ。発信力がものすごい。関西財界にも嫌う人が多いが、耳を傾けざるをえなくなっている。ただ、ちょっとクエスチョンマークがある」
それは--。
「知事から市長に転じたあたりまでは、なかなかと評価していたが、国政のことを言いだしたので、『あれっ』と。目先を変えては新たなターゲットを客に見せようとしている。急ぎすぎというか」
最終ゴールはどこに--。「わからない」
橋下人気が今後全国規模でどう推移するかは未知数だ。
「面白いじゃないか」という空気は確かにあるが、本格的な国政改革につながっていくか。
情けないのは、民主、自民の両大政党が、大阪からの攻めのぼりを迎え撃ち、粉砕しようとする気迫を欠いていることだ。それこそが危機である。(敬称略)
杜父魚文庫

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