権力中枢の不快感か、団派の巻き返しか?重慶公安局長で「打黒英雄」の王立軍を解職。「王立軍」はアニメの題名ではありません。実在の中国人、次のキーパーソンの一人。
微妙な時期である。秋の十八回党大会を前に、誰が中枢入りするか。王洋か、王岐山か、或いは薄き来か。全員か。現時点での注目点は、李克強が次期首相、習近平が次期総書記になり、よほどのことでもない限り逆転はないとされる。
それでも李克強では頼りないため、経済危機が深化した場合は王岐山副首相がリリーフで暫定首相に就くという観測が消えた訳でもなく、王洋(広東省書記)がウーカン村の「民主選挙」騒動に妥協的収束で、北京中央からにらまれたわけでもない。
温家宝首相は党内民主化、党改革を叫び続け国際的に人気が高いが、党内ではいまや鼻つまみ。欧州が危機に陥ったら中国経済も被害を受けるため救済に協力するべきだと温首相が叫べども、権力中枢はそっぽを向いたままである(ちなみにIMFは中国に警告を発し、「ユーロ救済に中国が協力しないとなると、貿易も激減するだろう」とした――2月6日)。
この文脈からいえば「唱紅打黒」(毛沢東の原点に返り、腐敗を追放せよ)という重慶市書記の薄き来は、現在の胡錦涛執行部にとっては、不気味な存在。多くの共産党幹部からみれば、うとましき野心家ということになる。
さて重慶におけるマフィア退治の影の主役、つまり重慶市公安局長として薄き来とともに重慶に落下傘降下してきた「打黒英雄」は王立軍という人物である。
つまり、この男がいなければ薄き来が、実際にマフィア退治など出来なかったのだ。
2月2日、重慶市党委員会は「王立軍の党副書記兼公安局長の任を解き、重慶市副市長として教育方面の担当に専念する」と発表があった。たちまちにして、この人事は前中国の話題となった。
第一は降格人事説。地元有力者の恨みを買い、中央の権力中枢に不快感を与えたからとするもの。
第二は通常のルーティンによる交替説。
第三は団派が巻き返し、終局的には「太子党」の象徴的存在でもある薄き来の基盤を脆弱化させる裏目的があるとする説。
第四は嫉妬による太子党の内ゲバの擬制説。等々。
▼王立軍とはいかなる人物か
にわかにスポットが当たった、この「中国の鬼平」と言われるほどの王立軍は、快刀乱麻の快男児なのか。
王立軍は漢族ではなくモンゴル族。1959年生まれ。父親は鉄道の工員。母親は紡績工場で働いた。モンゴルの名前はウォンィパテール(太陽の英雄を意味する)。子供時代から学問好きで、武道好き、少林寺拳法をならう。まさに文武両道(中国語は「文武双全」という)。一方で絵画の趣味もあった。
1977年に軍隊へ。除隊後は警官に志願して公安畑を歩んだ。87年にはやくも派出所所長に抜擢され、赴任地で三年間に1600名の不良分子を逮捕した実績がある。
遼寧省鉄玲市の公安副局長、錦州市公安局長の間にも犯罪取り締まりに全力を尽くしてマフィア退治に成功し、不評だった警察の評価を高めた。なにしろ犯行現場にまっさきに駆けつけ、凶暴なマフィアとの乱闘、戦闘におじけづくことなく負傷20ヶ所、生死のあいだをさまよって十日間も意識不明だったという武勇伝もある。
この王立軍に目をつけたのが当時、遼寧省省長をしていた薄き来だった。薄は重慶市書記として赴任するや、右腕として王立軍を呼び寄せ、いきなり重慶公安局長兼党委員会副書記とした。それに従った王立軍は、まさに薄の次の出世にかけた忠臣=関羽のごとし。
重慶でのマフィアならびに腐敗幹部一斉粛正は逮捕したマフィア110名のうち、7名が死刑となり、押収したカネは200万元。ついでにマフィアに便宜をはかってきた市幹部19名も同時に一網打尽とした。だから「中国版 鬼の平蔵」こと「打黒英雄」という称号がついた。
その王立軍の事実上の失脚は、次の政変の予兆だろうか?
杜父魚文庫
コメント