中国重慶市で汚職や組織犯罪の摘発を行って英雄視されていた王立軍副市長(前公安局長)が失脚した事件は、中国内外で大きな波紋を広げて外国通信社のAFPや香港紙などが詳しく報道するようになった。日本でも産経や時事が詳報を伝えている。
共通しているのは同事件が中国の次期指導部を決める秋の共産党大会を控え、各派閥による激しい権力闘争の一環としてとらえている点である。香港から時事は王立軍氏の後任に、胡錦濤国家主席と同じ共産主義青年団(共青団)出身の関海祥書記が市公安局長に任命されると伝え「共青団派の勝利だ」とした。
王立軍氏を重用した薄熙来重慶市党委書記については早くも失脚説が取り沙汰されている。北京の産経は「王氏への捜査は、その親分である薄氏の中央入りを阻止したい政敵が主導した可能性が高い」(共産党筋)と分析している。さらに立軍王氏が今回突然、米総領事館に駆け込んだのは、捜査の手がいよいよ身辺に迫り、このままだと自分も処刑されるとの危機感があったためとみている。
仏AFPも薄熙来党委員会書記の側近である王立軍前公安局長が、米国へ亡命を図ったとのうわさが広がり、共産党指導部周辺で権力闘争が起こっているのではないかとの憶測が出ていると報じた。さらに中国共産党は今年、最高指導部にあたる政治局常務委員会9人のうち、胡錦濤国家主席を含む7人が退任する予定で、薄熙来氏はここで常務委員入りを目指しているが、今回の出来事が昇進の妨げになる可能性も出てきたとしている。
<【香港時事】香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは12日、中国重慶市政府筋の話として、同市江津区共産党委員会の関海祥書記が市公安局長(警察本部長)に任命されると伝えた。関氏は胡錦濤国家主席と同じ共産主義青年団(共青団)出身。同紙はこの人事について「薄熙来重慶市党委書記に対する共青団派の勝利だ」と解釈している。
重慶では薄書記の側近だった王立軍副市長が公安局長を兼ね、暴力団一掃キャンペーンを指揮してきたが、市政府は2日、王副市長の公安局長兼務を解くと発表。王副市長はその後、ひそかに重慶を逃れ、成都(四川省)の米総領事館を訪れた。米亡命を拒否されて総領事館を出た後、国家安全省幹部により北京へ連行されたとみられている。(時事)>
<【北京=矢板明夫】中国中南部の重慶市の王立軍副市長が6日に米総領事館に一時駆け込み、その後中国当局に身柄拘束されて「休養」が発表された事件が中国内外で大きな波紋を広げている。中国の次期指導部を決める秋の共産党大会を控え、各派閥による激しい権力闘争が表面化したと指摘されているほか、事件が習近平国家副主席の訪米直前に起きたことから、米中関係に微妙な影響を与えるとの見方も出ている。
王氏は遼寧省公安局幹部だった1990年代に数々の難事件を解決したことで、後に遼寧省長になった薄煕来氏に評価され、薄氏の腹心の一人となった。薄氏は薄一波元副首相の子息で、党の高級幹部子弟で構成される「太子党」の中心人物の一人。今年秋の党大会で最高指導部入りが確実視されていた大物政治家の一人だ。
王氏は2008年、重慶市書記に転出した薄氏に引き抜かれる形で重慶市公安局副局長となり、薄氏の功績とされる黒社会(暴力団)一掃キャンペーンを主導。暴力団との癒着を理由に複数の元重慶市高官を逮捕し、裁判で死刑に処したことが大きな反響を呼び、王氏はメディアに「英雄」と宣伝され、副市長兼公安局長に抜擢(ばってき)された。
しかし、王氏の強引な手法は数多くの冤罪(えんざい)事件を生み出したとされ、党内から激しい批判が寄せられた。昨年末から「経済問題で党中央規律検査委員会の調べを受けている」との噂がインターネットで出回り、今月2日に兼任していた公安局長を突然解任された。「王氏への捜査は、その親分である薄氏の中央入りを阻止したい政敵が主導した可能性が高い」(共産党筋)という。
王氏が今回突然、米総領事館に駆け込んだのは、捜査の手がいよいよ身辺に迫り、このままだと自分も処刑されるとの危機感があったためとされる。しかし、結果的に米総領事館を巻き込んだことは、薄氏の政治生命に大きなダメージを与えるだけではなく、習近平氏が率いる太子党の求心力にも影響を及ぼす可能性がある。
米大使館は、亡命を求める中国の知識人を受け入れたことがあったが、王氏は米総領事館内に約24時間とどまっただけだった。政治亡命の要求を米国が拒否した可能性が高い。習氏訪米を前に、米中間の外交問題にさせなかったことで米国は中国に大きな「貸し」を作ったともいえ、習氏との交渉では米国側が有利になったとの見方もある。(産経)
<【2月12日 AFP】中国共産党の次期最高指導部入りを目指す重慶(Chongqing)市のトップ、薄熙来(Bo Xilai)党委員会書記の側近である前公安局長が、米国へ亡命を図ったとのうわさが広がり、共産党指導部周辺で権力闘争が起こっているのではないかとの憶測が出ている。
北京(Beijing)の米大使館は9日、重慶市の前公安局長の王立軍(Wang Lijun)副市長(52)が、四川(Sichuan)省成都(Chengdu)にある米総領事館を訪れたことを認めたが、王副市長は「会合のために訪れ、自らの意思で」総領事館を去ったと述べたのみで、副市長が米国への亡命を求めたという説については触れなかった。
しかし国営新華社(Xinhua)通信は、「王立軍重慶市副市長が中国南西部にある米総領事館に立ち入り、そこに1日ほど留まっていた件について」当局が調査中だと報じた。
■指導部入り狙う薄熙来氏の側近、失脚か
中国共産党は今年、最高指導部にあたる政治局常務委員会9人のうち、胡錦濤(Hu Jintao)国家主席を含む7人が退任する予定。薄熙来氏はここで常務委員入りを目指しているが、今回の出来事が昇進の妨げになる可能性も出てきた。
王氏は、薄氏の下で重慶市の公安局長として、同市高官数十人の逮捕も含めた汚職一掃キャンペーンを行い評価を高めた。しかし、重慶市当局は前々週、王氏を公安局長から解任。続けて8日には、ストレスや過労が原因で王氏が「休暇療養する」と異例の発表をした。病気療養は、中国共産党内で失脚を婉曲的に言い表すときによく使われる言葉だ。
香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の中国研究家、ウィリー・ラム(Willy Lam)氏はAFPの取材に対し、「王氏の解任は(共産党)上層部の内部抗争の結果である可能性が最も高い」と答えた。「この件は、薄氏の(常務委員への指名)チャンスに障害となる。中国共産党には、各行政区のトップは自分の部下の不品行について責任を取らなければいけないという伝統的な原則がある」と言う。
今週には次期国家主席と目されている習近平(Xi Jinping)国家副主席の訪米を控える中、崔天凱(Cui Tiankai)外務次官は9日、報道陣に対し、王氏の米総領事館訪問についてコメントを拒否し、問題は既に「比較的円滑に解決した」とだけ述べた。
■「病気療養」発表にネットで亡命説広がる
しかし、中国で人気のマイクロブログなどでは、所在が不明となっている王氏の動機や行方について、さまざまな憶測が流れている。国営英字紙・環球時報(Global Times)によると、市当局による王氏病気療養の声明は、発表後1時間以内に3万回も転載され、内部抗争への国民の関心の高さを明らかにした。
中国のインターネット検閲当局は8日に、王氏の氏名による検索や王氏に関するコンテンツの閲覧を遮断したが、9日には、まだ王氏の米総領事館訪問が国営メディアで報じられていないうちから、マイクロブログでは広範囲に情報が出回っていた。王氏亡命計画説は、7日夜に米総領事館の周りに警察車両が多数急行したとの報道から、湧き上がったとみられる。
薄熙来氏は元副首相の息子で、中国共産党の「プリンス」とみなされているが、共産主義となじまない縁故主義や世襲を否定する勢力は、薄氏の最高指導部入りに反対している。
一方、薄氏が指揮した重慶市の汚職や組織犯罪の摘発は一般に非常に高く評価されており、市民の97%が「安心感を持てるようになった」「外を歩くのが恐くなくなった」などと答えている。
香港中文大学のラム氏は「薄氏は目標を達成するためならば、どんなリスクもいとわないマキャベリストだと思われている。重慶市での革命歌の奨励キャンペーンや、市上層部の汚職摘発なども、自分自身の政治的地位を有利にするための駆け引きとみられている」と分析している。(AFP)>
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