天皇陛下が虚血性心疾患の疑いで、12日(日)、東京大学付属病院で精密検査を受けられ、18日(土)同病院で心臓冠動脈バイパス手術が行われると報じられている。新聞各紙の情報を総合すると、これまで確認できた「事実」は次のようなことだ。(以下、敬語は避ける)。
・造影検査の結果、3本ある冠動脈のうち2本が部分的に狭くなっていて、血流が滞っている(狭心症)
・このため、冠動脈の狭窄した部分を迂回するバイパス手術を受ける
・手術は胸を切り開く開胸手術ではなく、人工心肺を使わず(off-pump)、心臓を動かしたままの状態、心拍動下で行う
・手術の執刀は順天堂大学心臓血管外科の天野篤教授が担当する。高度なテクニックを持った外科医であり成功率が高い
・・・といったところだが、それぞれの項目をよりよく理解するためには医学的に、専門的な知識が必要である。まず
【造影検査】
左腕(または足の付け根)から直径2ミリほどのカテーテルを挿入。心臓からの血液の出口(大動脈弁)から数センチのところにある冠動脈の入口にカテーテル先端が到達したタイミングで造影剤を冠動脈内に注入。これをレントゲンで撮影すると、冠動脈のどの部分がどれくらい狭まっているかが分かる。
陛下は、3本ある太い冠動脈のうちの2本に狭窄部分のあることが確認できたという。特に、「左回旋枝」と呼ばれる血管に75%から90%の狭窄が見られた。通常、75%以上の狭窄がある場合、バイパスが必要と判断される。
【バイパス手術】
文字通り、冠動脈の狭窄した部分をまたぐように迂回路を造る手術。かつて(90年ほど前)は心臓を一旦停め、人工心肺を使って全身の血液の循環を維持しながら、太股の内側にある静脈(大伏在静脈)を切り取ったもの(グラフト)でバイパスを作る方法(術式)が、一般的だった。
ところが、最近(‘90年代半ば以降)は、肋骨の内側を走る左内胸動脈や右内胸動脈を使う方法がスタンダードとなった。このような方法を専門的にはオフポンプ(’off-pump CABG‘:Coronary=冠動脈、Arterial=動脈、Bypass Grafting)バイパス手術といい、人工心肺を使った方法に較べ、患者への身体的が小さく、術後の患者の回復も早いというメリットがある。
【執刀医】
さて、執刀医である。東京大学が私立大学順天堂の医師と協力する、国内最高のVIPの心臓手術を自前の外科医に執刀を任せなかった。これは異例中の異例である。執刀医とされた天野篤教授とは何者か。
天野篤・順天堂大学心臓血外科教授は、‘83年日本大学医学部卒。テレビの「天皇心臓手術」報道番組でコメントを聞かれて度々登場している、「神の手」(ゴッドハンド)を持つといわれる心臓血管外科医、東京ハートセンター病院の南淵明宏医師(奈良医科大学卒)とは大学は違うが同期だ。2人は30~40代の若いときから「宿命のライバル」と報じられたこともある。珍しく海外留学の経験のない“メードインジャパン”の名医である。
2010年、順天堂大学病院の冠動脈バイパス手術の実績は、症例数170、このうち162例がオフポンプ手術だった。患者死亡率は0.6%。最高のVIP手術の執刀医としては申し分のない人選だったといえるだろう。
杜父魚文庫
9095 天皇陛下の心臓手術 石岡荘十
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