9105 日本の明日の姿は、沈みゆくポルトガルに似ていないか 宮崎正弘

嘗ては世界帝国、大航海時代の覇者。そして今はアンゴラに就労。ポルトガルは2011年5月にIMFの救済条件を呑んで、予算カット、公務員給与削減など厳しい条件と交換で、780億ユーロもの救済資金が注ぎ込まれた。当時の対GDP赤字は107%だった。
そして2012年1月、対GDPレートは、「ん?」、112%に増えた。かなり厳格に条件を守り、ポルトガルは予算削減、公共料金値上げに踏み切ったにもかかわらず累積赤字が増えたのである。
要するに一方で増税に踏み切り、他方では年金を削減し、公務員給与を下げ、借金を減らしたにも関わらず、対GDP赤字額が増えたのである。理由は簡単で経済が萎縮したからだ。GDPがマイナス成長、消費は振るわず、輸出だってそれほど伸びなかった。
 
これを「ポルトガルの逆説」という。そして、同様なパターンはギリシアはもちろんのこと、スペイン、アイスランドへ、やがてフランス、ベルギー、オランダもこの列に続くだろう、とされる。
日本は米国を追って世界第2位のGDP、戦後めざましい高度成長を遂げ、世界有数の経済大国となった。1980年代には「明日にも米国を抜く」と言われた。自動車生産世界一、家電から電子部品、精密機械で世界のハイテクを領導し、株式市場もロンドン、フランクフルトを凌駕して、ニューヨークに迫る勢いだった。
NYの象徴であるロックフェラー・センターを買い、ロスの目抜き通りウィルシャー・ブルーバードのめぼしい高層ビルを片っ端から買い、ついにはハリウッド映画を二社も買収して気を吐いた。
▼日本のバブル崩壊後の沈没ぶりとポルトガルの類似性
バブル破滅以後、暗転。自動車生産は中国に抜かれ、鉄鋼生産の優位も明け渡し、コンピュータ開発に後れを取り、通信機器では中韓国台湾にも抜かれた。「スパコンで世界二位ではいかないんですか」という内閣に替わり、日本人の勤労精神、高かったモラルが消滅し、医療福祉、社会保障という生産的でない方面へ国費が投入され、長かったGDP世界第二位の座を中国に奪われた。
そしてエンジニアは中国へ出稼ぎに行くようになり、国内は老齢化し、いずれ保険、年金制度は瓦解し、医療システムは崩壊するだろう。明日の日本はいまのポルトガルに酷似してきた。
ポルトガルでは不思議に暴動が起こらなかった。ギリシアでは店舗、銀行焼き討ちという過激な労働組合と失業者の暴動がおきたのに?
我慢強い国民性と評価されたのも、しかしながら2月14日のバレンタインまでだった。同日、リスボンの王宮広場を十万の抗議者が埋め尽くし、IMFの勧告に従って経済を失速させたポルトガル政府に抗議した。
ガスパル財務大臣(前ECB幹部)はさらなる年金カットを準備し、公務員のボーナスの大幅削減(合計12億ユーロ)によって借金返済に充てるとした。「こうすればポルトガルは2014年から生長軌道を回復できるのだ」と自信に満ちている。
給付が減らされる年金生活者、生活保護、医療保険料金があがり病院の支払いが増え、若者の失業者も、いつまでも医療費が無料というわけにはいかなくなるだろう。日本はもって他山の石とすべきだが、もはや時間はない。
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 読者の声 どくしゃのこえ DOKUSHANOKOE  読者之声
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(読者の声)王立軍の記事は貴誌の分析が一番速くて正確だったと思います。ついで劉源の登場記事も一般マスコミより一日リードの速報でした。
このところの中国情勢は、遠く東京でウォッチされている宮崎さんのご指摘通りで、感服いたしました。まさに灯台もと暗しですね。今後も中国の動きには目が離せません。(DK生、在北京)
(宮崎正弘のコメント)北京では、しかし生の情報が溢れていて、醍醐味があると思います。東京からみる北京政治は舞台裏の空気、ニュアンスが読めず、予測は難しい局面を迎えています。
杜父魚文庫

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