昨日、取材先で野田佳彦首相が座長を務めて約3年前の平成21年3月にまとめた「私たちはどのような国をめざすのか 日本の歴史から未来を展望する」という204ページの本をいただきました。「松下政経塾特別限定版」とありますから、あまり発行部数は多くないのだろうと思います。
この本の第一章「日本人の歴史観を正す」は、まさに野田氏が中心となって書いたものだと聞きますが、これが実に真っ当な内容なのです。これを読むと、野田氏は初心を見失ったのか、あるいは豹変する機会を待って爪を研いでいるのか、それともいい加減にテキトーに保守ぶったのか分からなくなります。
例えば、「なぜ東京裁判に注目するのか」の項には、こんなことが記されています。
《東京裁判の実相を知らないまま東京裁判史観にとらわれているとすれば、これほど愚かなことはありません。また、歴史認識はまさに現代の問題そのものなのです。それは我が国においてはむしろ今日最大の問題だともいえます》
《中韓両国はしばしば、内政の失敗に国民の不満が溜まると歴史問題を持ち出して国民の目を日本に向けさせようとします。いわゆる歴史カードを使って日本の外交・内政にわたり圧力をかける政治手法です》
《東京裁判に言及したサンフランシスコ講話条約第11条と、それに基づいて行われた衆参合わせ4回に及ぶ国会決議、さらに関係諸国の対応により、A級、BC級すべての戦犯の名誉は法的に回復されているのです。A級戦犯と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではないのだから、戦争犯罪人が合祀されていることを理由に首相の靖国参拝に反対する論理はすでに破綻している》
《東京裁判の判決から60年も経った今日、依然としてA級戦犯を戦争犯罪人として断罪し続けるのには大きな疑問が残るのです》
《(平和に対する罪の柱となっている)この共同謀議がさらに噴飯ものなのは、一度も会ったことのない者同士でも罪に問えるという点です。面識のない者同士が悪事をたくらむはずがないというのは日本人の(日本人以外でもほとんどの人間にとっては)常識に属することです》
《東京裁判の多数判決は「侵略戦争を遂行する共同謀議は、すでに最高度において犯罪的なもの」だったと結論しました。この歴史観は侵略政策の一貫性を示す一種の陰謀史観となりました。被告を一網打尽にできるということで共同謀議を導入したのだから陰謀史観になるのが当然といえば当然だったのでした。したがって、この多数判決の事実認定は事実というより壮大なフィクションという様相を呈しています》
……まったく異論はありません。野田氏は、それが分かっているなら中韓に対してももう少しまともに振る舞えないものかと、とても残念に思います。まあ、仮にこれが野田氏の本心だとしても、民主党の首相である以上はこんなものかもしれませんが。
また、この章では「米国上院委員会でのマッカーサー証言」との項も設けてあり、マッカーサーが1951年5月に行った次のような有名な証言も紹介されています。
《もしこれらの原料の供給を絶ち切られたら、一千万から一千二百万の失業者が発生するであろうことを彼ら(日本)は恐れていました。したがって彼らが戦争に飛び込んでいった動機は、大部分が安全保障の必要に迫られてのことだったのです》
さらに、同章のコラム「BC級戦犯の無実を描いたミュージカル『南十字星』」では、BC級戦犯についてもこう述べています。
《実際、濡れ衣を着せられて処刑されたBC級戦犯がたくさんいたのです。BC級戦犯の法廷は真実を明らかにする場ではなく連合国の報復感情を満たす場でしかありませんでした》
……この章では最後に、日本がサンフランシスコ講和条約で東京裁判の「裁判(the judgements)を受諾」とするおかしな外務省訳にも異を唱えています。これは私も何度か産経紙面などで書いてきましたが、政府はこの訳をもとに日本が東京裁判全体やその精神までもを受諾し、受け入れたかのような論理をときに展開します。
ですが、講話条約の正本であるフランス語の条文をみてもスペイン語の条文をみても「判決」となっており、どう考えてもこちらの方が意味が通るのです。野田氏らはこの本でこう指摘しいます。
《なお、the judgementsを「裁判」と訳した外務省の意図は今日でも依然として明確になっていません。国会で問い質されても政府からは「judgementに裁判の語を当てることに何ら問題はない」といった根拠不明の答弁が返ってくるだけです。The judgementsを「判決」と訳しても何ら問題はないのに、なぜ政府は本来の訳を採用しないのでしょうか》
……いま、野田氏は行政府の長なわけですから、この積年の疑問を自ら晴らし、すっきりさせてはどうかと思います。そして、もし過去に主張してきたことに信念があるというのなら、その信念を堂々と訴え、党所属議員の多くがそれに反対するのであれば、民主党をぶっ壊して政界再編に向かってほしいと、あまり期待せずに見守っています。
杜父魚文庫
9121 3年前に野田首相が示した至極真っ当な東京裁判観 阿比留瑠比

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